弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

Wi-Fi時代に東京都のネカフェ規制は正当化されないのではないか

ときどき出先で仕事をしたいときにネットカフェに入る。

弁護士は高度の守秘義務を負っているから、飲食店などでは仕事はしにくい。したがってカラオケボックスかネットカフェを探すことになる。

ところで、東京都内でネットカフェに入るときは、いちいち身分証を提示して会員登録をしなければならないから面倒だ。

これは、ネットカフェ事業者に対して、利用客の本人確認を義務付ける都条例(通称「ネットカフェ条例」)のせいだ。(なお私のホームグラウンドの千葉県には、本ブログ執筆時点でこのような条例はない。ネットカフェを巡る法規制は、自治体ごとにまちまちのようだ。)

自宅のPCや自分名義の携帯電話からネット掲示板SNSなどに投稿すると、IPアドレスとタイムスタンプから契約者の特定が可能だ。

自宅PCや携帯電話であれば、契約者と投稿者は一致する場合が多いから、この仕組みを利用して発信者情報開示請求がなされている。

しかしネットカフェからの投稿の場合は、IPアドレスが特定個人に紐付いていないから、名誉毀損、犯罪予告などの違法な投稿がされても責任追及が困難になってしまう。*1

そこでネットカフェのIPアドレスでも特定個人までたどり着けるように、ネットカフェ事業者に本人確認を義務付けた。

これは制定当時においては一定の合理性があったと思う(当時から反対論は強かったが)。

でも、今はどうか。

今は飲食店などが、容易に店内にフリーWi-Fiを飛ばせる。こうした公衆のWi-Fi経由で客が違法な投稿をしても、投稿主を特定しにくいことはネットカフェと変わらないだろう。

しかし、客の本人確認をしなくても、フリーWi-Fiを提供することは禁止されない。ネットカフェだけ本人確認を義務付けられるのは不均衡ではないか。

「立法事実」という法律用語がある。

立法事実とは、「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、 政治的もしくは科学的事実」のことだ。*2

法規を制定して国民の自由を制限する以上は、その法規の裏付けとなる立法事実がなければならない。

例えば「AVを観ると性犯罪をするようになるからAVを禁止しよう」という法案が提出されたとしよう。性犯罪を防ぐという立法目的は、それだけ見ると正当な気がする。

だが、そもそも「AVを観ると性犯罪をするようになる」という事実はあるだろうか。この事実が論証されない限り、この法案は立法事実を欠く法案ということになり、もし成立したら表現の自由を侵害して違憲となる疑いが強い。

ところで立法事実は変遷することがある。社会の状況は常に変化しているから、制定時点では合理的だった立法でも、後に立法事実の裏付けを失う場合がある。*3

都のネットカフェ条例はわずか7年前に制定された条例だが、制定後に、ネット接続環境をめぐる社会状況は大きく変化した。その結果として、フリーWi-Fiなら本人確認不要だがネットカフェなら必要という不均衡が生じている。

不均衡が問題なら、フリーWi-Fiも法規制する方に揃えるという解決方法も理屈上はあり得る。

しかし、ただでさえ日本のWi-Fi環境の貧弱さが指摘されている昨今、しかも東京五輪を控えているのに、フリーWi-Fiの提供に本人確認を義務付けるというのは現実的ではないだろう。

それならば、ネットカフェの規制を撤廃する方向で揃えるのが合理的ではないか。

このままネットカフェ条例を存置したからといって違憲とまではいえないかもしれないが、都はこれを改廃するのが望ましいと思う。

私も面倒な思いをしなくて済むようになるし。

 

京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表

弁護士 三浦 義隆

https://otakalaw.com/

 

*1:発信者情報開示請求をしても、「そのとき店内にいた客のうちの誰か」というところまでしか特定できない。

*2:芦部信喜(1979)「憲法訴訟と立法事実」判例時報932号12頁。

*3:例えば2005年の在外邦人選挙権制限違憲判決、2008年の国籍法違憲判決は、立法事実の変遷を認めることにより違憲判断を導いている。