Twitterに流れてきた内容証明文案の間違い探しをしてみた
先日Twitterを見ていたら下記のツイートが流れてきた。
PTAへの入会を事実上強制されることに対抗するため、PTA役員宛に内容証明郵便を書いて送ることを推奨する内容で、文案画像が付いている。大量にRTされていた。
頭の固いPTA役員に叩きつける「内容証明郵便」。私は過去「営業妨害の内容」で当時の役員に送り、以後強制される事はなくなりました。これは一般の方でも使えるようにしてあります。弁護士も行政書士も不要。内容証明郵便を使うだけで役員が震え上がる、最終兵器です。#違法PTA #PTA pic.twitter.com/QKCDkjkiSt
— MARIKO (@MARIKO_HR) 2017年4月3日
私は、PTAへの入会に事実上の強制的要素があるのは望ましくないと考えている。
また、一般論として不当又は違法な行為をされたときに内容証明郵便で意思表示することの有効性も否定しない(ただし素人が内容証明を送っても、代理人弁護士作成のものと違って訴訟リスクを感じさせる効果が低いから無視されて終わりがちではある)。
だから基本的な考えはこのツイート主と相違がないともいえる。
しかしこのツイートについている文案は間違いだらけであり、とうてい参考にできるような代物ではなかった。
私も専門家の端くれなので誤った情報が拡散されていると気持ちが悪いし、知識のない人が鵜呑みにして真似しても気の毒だ。
そこで前記のツイートを引用しつつ下記のツイートをした。
【元ツイが拡散されてしまってるので拡散希望】内容証明郵便を送ると効果がある場合がある、ということ自体は否定しませんが、文案の内容は間違いだらけですので皆さん決して参考にしないようにしてください。 https://t.co/KO9c9HIcpv
— ystk (@lawkus) 2017年4月5日
私のツイートもそれなりにRTはされたが、2万フォロワー近くいるアカウントで「拡散希望」と述べて呟いているのに、元ツイートのRT数と比べるとずっと少ない。やはりネット界では、いい加減なことを言ったもの勝ちという傾向があるのは否めないようだ。
さて、間違いだらけとの結論だけ言いっ放しでは据わりが悪いので、以下、問題の文案の間違いを列挙し、簡単な解説を付してみた。
1行目「文部省が認める」
①文部省はもうない。これは一般常識。
4行目「貴殿の行為は、憲法20条結束の自由に反するもので違憲行為」
②「20条」→結社の自由は20条ではなく21条。専門知識がないのは仕方ないが条文くらいはググれば出るから調べてから書こう。
③「結束の自由」→結束の自由ではなく結社の自由。専門知識がないのは仕方ないが条文くらい以下略
④「違憲行為」→憲法は国家の行為に適用される法だからPTA役員の行為に直接適用されるということはない。
5行目「役員としての権利を行使して脅迫しているようにも捉えられ」
⑤「役員としての権利を行使して」→PTAは任意団体だからPTA役員が保護者に入会を強制する権利はないとツイート主は主張しているはずだが、この記載では反対に入会強制が役員としての権利行使だという主張をしており矛盾している。
⑥「権利を行使して脅迫」→権利を行使しているだけなら通常は脅迫にはあたらない。やり方次第では脅迫となる場合もあるが、やり方の不法性を示さず「権利を行使して脅迫」と書いただけでは意味不明であろう。
6行目「刑法の強要罪の疑いも持たれます」
⑦入会強制が役員としての権利行使だという主張と矛盾。強要罪の成立には、暴行又は脅迫を用いて他人に義務のないことを行なわせ、または権利の行使を妨害することが必要だから。
9行目「刑法に基づいて警察に被害届」
⑧刑法に被害届に関する規定はない。
こんなところ。ごく短い文書の中に、計8箇所も間違いを見つけることができた。
この文書が特別不出来であるというより、素人さんが書いた法律文書というのは大体こんなものである。
最後に。
私の前記ツイートに対し、「内容が誤りだらけなのはともかく、こんな文書を内容証明で送りつけたら相手方は"やばい奴だから関わらないでおこう"となって結果的に目的を達する可能性があるのでは」との反応がいくつかあった。まあ正直それはあり得ると思う。
ただしそれは、たまたまこの件が、相手方が「関わらないでおこう」と思ってくれればOKという事例だったからにすぎない。積極的に何か請求したい場合には、無視されてしまえばそれまでである。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所