5月のブログ運営を振り返ってみる(PV100万超、ブクマ増加数1位など)
1.月間PV100万超
2017年4月に開設した本ブログ、2か月目の5月はちょっと頑張って26回も更新した。
その結果、PVは100万を超えた。はてなブログ本体と、同じ内容が転載されているBLOGOSを合わせての数字だが。
本体のPVが85万強。BLOGOSが19万強。
2.はてなブログ月間ブクマ増加数1位 (9,113ブクマ)
はてなブログの月間被ブクマ増加数ランキングでは1位だった。
2位にほぼトリプルスコアの差をつけていたので驚いた。
3.はてなブログ月間読者増加数2位
はてなブログの月間読者増加数ランキングは2位。
1位は聞いたことのないブログ。ブクマもあまりされてないが読者数だけは沢山増えたようで、ちょっと不思議だった。
ブクマはされないが読者数は増えるブログとか、その逆とか、一定の傾向があるのだろうか。初心者だからよくわからない。
4.BLOGOSのブロガーランキング12位
BLOGOSのブロガーランキングというのをさっき初めて見てみたら、閲覧数ランキングで12位だった。
上位にいる人は私を除き有名な方ばかりだったので、こんなに高いのかと少し驚いた。
BLOGOSは、私がはてなブログに投稿したものが時間差で転載されているだけだから、あまりPVの集まりやすい環境ではなさそうに思えるが。
5.直接の収益は無し
私はGoogle AdSenseとかアフィリエイトとかはやっていないから、直接の収益は無し。
今後もやらないかどうかはわからないが、多分やらないと思う。
6.各種メディア取材・出演など
痴漢関連の一連のエントリをきっかけに、以下のメディアから取材を受けたり出演したりした。(その他、断ったものもいくつか。)
・フジテレビ「ノンストップ!」(VTR出演)
・毎日新聞 (取材に応答)
・AbemaTV 「AbemaPrime」(生出演)
・東京FM「クロノス」(電話で生出演)
毎日新聞以外は少しだけだが出演料を頂いたりしているので、間接的な収益はあったことになる。小遣い程度だけど。
7.書籍化企画
書籍化のお話を2社からいただいている。うち1社と進めて行くことになりそう。
8.まとめ
私は本ブログを始めるにあたり、サボらず書きさえすればある程度多くの人に読んでもらえるだろうという見込みは持っていた。
- 弁護士という専門性があること
- 積極的に情報発信している弁護士が案外少ないこと
- 一般の方があまり知らず、かつ知れば勉強になる・役に立つであろう事項を、ある程度の精度で選別して書ける自信があったこと
- 簡潔にわかりやすく、かつ論理的に文章化できる自信もあったこと
- フォロワー数2万以上のTwitterアカウントがあるので更新告知をする上で有利なこと
- 2012年頃にちょっとアメブロをやっていて、すぐに飽きて更新しなくなってしまったが、アメブロも更新したときはそこそこ読んでもらっていたこと
理由は上記のとおり。
開始した4月は10回だけ更新して13万PVくらいだったので、5月は50万くらい行けばいいかなという気持ちでいた。
それが実際には100万。
ここまで伸びたのはさすがに予想外だった。
本ブログのネタは専門性に依存しているから、たくさん書いていくうちにネタが尽きるというか、一般の方に必要とされないような細かい知識になってゆかざるを得ないと思う。
だからいつまで続くかはわからないが、現時点ではまだまだ書きたいこと・書くべきことがあるので、当分の間は積極的に更新していきたい。
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
「管理職だから残業代は出ない」は誤り
1. 労基法上の「管理監督者」には残業代を払わなくてよい
企業の実務上、一定以上の職位にある管理職に対して残業代を支給しない、という取扱が広く行われている。
このような取扱がなされるのは、使用者側が、一定以上の職位にある管理職労働者を、労働基準法41条2号の「管理監督者」として扱っているからだ。
労働基準法 第41条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
同条の、労働時間に関する規定を適用しないというのは、法定労働時間をオーバーした場合の割増賃金の規定も適用されないということ。
したがって、「監督若しくは管理の地位にある者」(「管理監督者」)に対しては、残業代を支払わずに時間外労働をさせても適法ということになる。
2.管理職でも「管理監督者」にはあたらない場合が多い
しかし、管理監督者の範囲は、使用者が勝手に決めてよいわけではない。
もし勝手に決めてよいなら、企業は労働者をみな管理監督者ということにすれば残業代の支払を免れ放題になってしまう。そんな話が通るはずないことは、法律家でなくても常識でわかるだろう。
では誰が管理監督者の範囲を決めるか。
これは個々の労働者が労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するかの法的判断だから、最終的には裁判所が決める。
管理監督者の判断基準を一般的に判示した最高裁判例は今のところ存在しない。
そこで下級審の裁判例や行政解釈等を見ると、
①その業務内容、権限及び責任に照らし、労務管理等に関して経営者と一体的な立場にあるといえるか
→業務内容が重要で、与えられた権限と責任が大きく、労務管理等に関して経営者と一体的な立場にある場合は管理監督者と認められやすい。そうでない場合は認められにくい。
②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているといえるか
→自己の労働時間について裁量性が高い(要するに、自由がきく)場合は管理監督者と認められやすい。そうでない場合は認められにくい。
③その地位にふさわしい待遇を受けているか否か
→一般従業員に比べて高待遇であればあるほど管理監督者と認められやすい。そうでない場合は認められにくい。
こうした要素を総合的に考慮し、厳格に管理監督者性を判断するのが裁判例の傾向といえる。
その結果、
社内的には管理監督者として扱われ残業代不支給とされていた労働者であっても、裁判で争った場合、多くの裁判例で管理監督者性は否定されている
というのが現状だ。
では、具体的にどの程度の職位以上なら管理監督者にあたるのか。
上記のとおり管理監督者にあたるかどうかは職務内容、権限と責任、待遇、勤怠の裁量性などに照らして実質的に判断されるから、役職名で機械的に決まるわけではない。だから一律にはいえない。
しかし、あくまで目安として述べると、まず係長クラスなら論外。課長クラスでもまず管理監督者とは認められない。部長クラスからようやく判断が分かれてくるという感じ。
管理監督者性が争われた有名な裁判例として、平成20年の日本マクドナルド事件判決がある。
同判決は、なぜ管理監督者に残業代を払わなくてもよいかという労基法41条2号の趣旨について、
管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
と判示した上で、そのような労基法の趣旨からすると、
管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきである
と、管理監督者性の判断基準を示した。
そして、マクドナルドの店長職の職務や権限が限られていること等を理由に、原告の管理監督者性を否定し、残業代の支払いを命じた。
比較的高い職位の労働者について管理監督者性が否定された事例も挙げておこう。
東京地裁平成27年6月24日判決(公刊物未登載)は、被告会社の東京本部統括部長、東京営業推進部長、東京本部住設部長、同お客様サービス部長を兼務し、月額83万円あまりの賃金を得ていた原告について、①原告は経営方針等の決定に限定的にしか関与していなかったこと、②原告の人事労務に関する権限も限定されたものであったこと、③原告は管理業務に専念していたわけではなく、個別案件の交渉や対応、ときには店舗への応援など、現場業務にも相当程度携わっていたこと、などを重視して、管理監督者性を否定し、残業代1227万4561円、付加金500万円などの支払を命じた。
このように、労働者が管理監督者にあたるから残業代を支払わなくてよいという使用者側の主張は、そう簡単には認められない。
現在、管理職であることを理由に残業代が支払われていないが、実際にはさほど権限の大きい仕事をしているわけでもないし待遇が良いわけでもないという労働者は、弁護士に相談してみるとよいだろう。
反対に、現在管理職に一律残業代不支給という扱いをしている経営者は、自社の労務管理が違法である可能性がきわめて高いことをまず自覚すべきだ。
あなたの経営する企業が、年功序列で昇進した結果として役職がついたにすぎず、さほど大きな権限と責任を有しているわけでもない従業員を管理監督者扱いして、基本給を増額する代わりに残業代不支給としたとしよう。
後に裁判で管理監督者性が否定された場合には、残業代を出さない前提で増額した基本給が残業代計算のベースになるから、高額の支払を余儀なくされることになる。
そんな事態に陥るくらいなら、管理監督者扱いせず残業代を払うことを前提に賃金を定めた方がよほど賢明だろう。
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
ライフネット岩瀬氏の「特段の事情」は裁判所用語
ライフネット生命社長の岩瀬大輔氏が、上記のFacebook投稿をして話題になっている。
上記のまとめサイトのように、ライフネット生命の業績が芳しくないこと、そのため超エリートの岩瀬氏が「お願い営業」に及んだことを揶揄する向きが多いようだ。
私はライフネット生命には全く興味がない。しかし、
やっぱり、私の友人知人、フェイスブックをフォロー頂いている皆さんは、特段の事情がない限り、少しくらい手続きが面倒でも、生命保険はライフネットにして頂きたいです。
という岩瀬氏の言葉遣いには少し興味をひかれた。
普段、「特段の事情がない限り」という言い回しを法曹関係者以外から聞くことはないからだ。
「特段の事情」というのは、法律用語というか裁判所用語で、最高裁判例が多用するタームだ。
最高裁が、争いのある事項について法解釈を示し、その後も判例として引用され続けるような一定のルールを設定するとき、「特段の事情がない限りAである。」といった言い回しをきわめてよく用いる。
本当によく用いるので使用例は数え切れないほどあるが、以下にいくつか例を挙げておこう。
傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法二一条一項の規定の精神に合致するものということができる。(レペタ事件大法廷判決)
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする。(最判昭28・9・25 民集7巻9号979頁)
ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が 所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供 する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、 開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成 が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるお それがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法二二 〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である。最決平11・11・12 民集53巻8号1787頁
いずれの場合でも、最高裁は、「原則はAだが、"特段の事情"がある場合は例外としてAではなくなるよ」ということを言っている。
しかも、その「特段の事情」とは具体的にどんなものか、最高裁はあまり詳細に述べないのが通例だ。
よって、どんな場合に「特段の事情」ありとされるかについては、その後の裁判例の集積に委ねられることになる。
このように、原則を示しつつ例外の余地を認めることによって、その後融通をきかせやすい余裕を持ったルール設定をできることが、最高裁が「特段の事情」を多用する理由だろう。
岩瀬氏の経歴を調べてみると、東大法学部在学中に旧司法試験に合格したが、司法修習には行かずに(したがって法曹資格は取得せずに)、学部新卒でBCGに入社したようだ。
私の記憶では、当時、旧司法試験の合格率は2%~3%で推移していたはず。合格率トップの東大でも例年6%~7%程度であり、在学中合格は一握りだったはずだ。
岩瀬氏は東大法学部の中でも学力的に優秀層だったということだろう。
しかし、岩瀬氏は合格はしたものの結局修習には行かず実業の道を歩み、司法試験合格からはかれこれ20年くらい経っているはずだ。
その岩瀬氏が、今でも「特段の事情がない限り」という一般にはなじみのない表現を用いるというのは面白い。
何しろこれは、自社の商品を買ってくれとお願いする文脈には全くふさわしくないワーディングだ。「原則的には契約すべきだが、例外的には契約しなくてよい場合もあるよ」と言っているのだから。
おそらく、岩瀬氏が司法試験の勉強をしていた頃に覚えたこの言い回しが、ほぼ無意識に出てしまったということだろう。
人間、一度たくさん勉強して身につけてしまったことはそう簡単に忘れず、その後の言葉の選び方などにも影響を及ぼすものなのだなあと感じ、少し微笑ましく思った。
ライフネット生命には全く興味がないと冒頭書いたが岩瀬氏に親近感はわいたので、頑張って立て直してほしいと思う。
生命保険契約は、特段の事情がない限りする予定ないけど。
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
弁護士が簡易裁判所を避ける理由
訴訟の一審の管轄は、請求額によって地方裁判所と簡易裁判所に分かれる。
例外もあるが、請求額が140万円を超える事件は地裁、140万円以下の事件は簡裁というのが原則的な振り分けだ。
先日、Twitterでこのようなアンケートをしてみた。
【弁護士にアンケート】原告代理人として慰謝料請求をします。相場は100~150万円と見られ、定型的ではなく、かつ争いのある事案です。依頼者の意向は「地裁でも簡裁でも先生の妥当と考える方に提訴して下さい」だとします。どちらに提訴しますか。リプか引用で理由も教えてくれたら嬉しいです。
— ystk (@lawkus) 2017年5月28日
地裁派が圧倒的だ。閲覧用を除くと、地裁派が9割近くを占めた。
弁護士から寄せられたコメントもこんな感じ。
@lawkus 地裁に入れました。争いがある事案で簡裁判事ガチャをかませたくないのが理由です。
— うの字 (@un_co_the2nd) 2017年5月28日
簡裁の場合、こちらが勝った判決でも、理由付けがあやふやすぎて、かえって心配になることもあるので、地裁でも簡裁でもいいなら地裁にするな。簡裁で行うメリットを感じたことないし。
— 中村剛(take-five) (@take___five) 2017年5月28日
訴額200万円で地裁にします。 https://t.co/NjTbZE6e1C
— 弁護士あだちけいた㌠ (@keita_adachi) 2017年5月28日
@lawkus 絶対に地裁。簡裁判事めちゃくちゃな訴訟追行された事がありこりごり。
— 火の輪 (@Fire_Ring_) 2017年5月28日
1審をギャンブルで棒に振りたくないので https://t.co/8QDGGI1ZCI
— パーム油 (@Izumibashi78) 2017年5月28日
@lawkus 簡裁の判事の中には非定形的な訴訟の判断を苦手とする人が少なくなさそうな印象を受けるからです。私自身が都区内の弁護士であるという地の利もあってのことですが。
— 櫻井光政 (@okinahimeji) 2017年5月28日
地裁に1票。簡裁は自由印象主義なので。 https://t.co/OKVxdorf0M
— ルート66(元ルパン3世) (@Route66_LP3) 2017年5月28日
地裁。小田原簡裁は、めんどくさそうなのは、どうせ地裁にとばすので。 https://t.co/ro2ucK3Z4O
— 弁護士 村松 謙 (@kmuramatsu) 2017年5月28日
@lawkus 地裁。140以下として簡裁に提起しても複雑だと移送されることも多いという実体験から、結局移送されるくらいなら最初から地裁の方が時間ロスがないから。
— ほりぐち (@mstk_Horiguchi) 2017年5月28日
間違いなく地裁ですね。てゆーか、物損交通事故と過払以外はすべて地裁でもいいぐらい。簡裁のほうが、和解対応が柔軟なことが多いので(司法委員等)、その点はメリットだけど、判決は(?)なことが多いので、大きな争いのある事案はちょっと・・・ https://t.co/lw5JQbsekd
— 弁護士中村晃基(福山) (@koukitei) 2017年5月29日
このように地裁派が圧倒的に多い結果になることは、アンケートをやる前からわかっていた。むしろ、思っていたよりは簡裁派が多いので少し驚いたほどだ。
多くの弁護士が、極力簡裁を避けて地裁に提訴しようとするのはなぜか。
その理由はいろいろあるが、最も大きいのは裁判官の質の違いだ。
簡裁判事の質は、通常の判事に比べると平均的に低い上にバラつきも大きい。したがって、簡裁に訴訟提起するとおかしな判断をされるリスクが高いからだ。
「簡裁判事」という用語は、単に「簡裁に所属する判事」という意味ではない。法律上、判事とは別の「簡易裁判所判事」という特殊な職名があるのだ。
実は簡裁判事は、司法試験に合格しなくてもなることができる。
一般の方はたいていこれを知らないから、言うといつも驚かれる。
裁判所法 第44条 (簡易裁判所判事の任命資格)
1 簡易裁判所判事は、高等裁判所長官若しくは判事の職に在つた者又は次の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して三年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 検察官
三 弁護士
四 裁判所調査官、裁判所事務官、司法研修所教官、裁判所職員総合研修所教官、法務事務官又は法務教官
五 第四十一条第一項第六号の大学の法律学の教授又は准教授
2 前項の規定の適用については、同項第二号乃至第四号に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
3 司法修習生の修習を終えないで検察官に任命された者の第六十六条の試験に合格した後の検察官(副検事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第45条 (簡易裁判所判事の選考任命)
1 多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者は、前条第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる。
この裁判所法45条に基づき、裁判所書記官を長年務めた人が内部試験を経て簡裁判事に任命されている。
簡裁判事の判事の主な供給源としては、この書記官上がりルートのほかに、定年退官した元判事が任命されるパターンもある。(判事の定年は65歳なのに対し、簡裁判事の定年は70歳なので。)
ざっとググった限りでは統計データを拾えなかったが、元判事ルートよりも書記官ルートの簡裁判事の方がおそらく多いと思う。
つまり、簡易裁判所に訴訟を提起すると、司法試験に合格していない人に裁かれる可能性が高い。
判事の能力を担保しているものはいろいろある。
- 司法試験に合格している。法律についての知識量はもちろんだが、体系的理解を要求されるのが司法試験だ。
- 司法修習を経ている。司法試験合格後に、司法修習という国の研修制度がある(昔は2年間、今は1年間)。この司法修習中に、司法試験合格者の中でも裁判官の適性を有すると認められた者がスカウトされて判事補になる。判事補任官志望者にとって司法修習は、修習生を鍛えるという意味でも選別するという意味でも機能している。
- 判事補時代に鍛えられている。任官から5年以内の判事補は、原則として単独で裁判をすることができない。だから、合議事件について、合議体の一員として裁判をすることになる。判事補は一つの合議体に同時に2人以上加わることもできないから、3人の合議体に判事補が1人いれば残りの2人は判事だ。このような環境で、判事補はみっちり鍛えられることになっている。
一方、書記官上がりの簡裁判事は、司法試験も司法修習も判事補時代も経ていないわけだ。
まあ、経歴はともかくきちんと裁判をしてくれれば文句はない。
しかし実際のところ簡裁判事は判事に比べて能力的に劣る人が明らかに多く、おかしな判断や訴訟指揮をされるリスクが高いことを、弁護士は経験的に知っている。
それが冒頭のアンケート結果につながっているわけだ。
なお、非公開アカウントなので紹介できないのが残念だが、「負け筋の事件なら簡裁に提訴。勝ち筋の事件なら地裁に提訴」という回答をくれた弁護士がいて、これには笑ってしまった。
たしかに、負け筋の事件で間違って勝つことができる可能性は簡易裁判所の方が高いといえそうだ。*1
あなたが訴訟を提起するとき、弁護士に依頼するならばその弁護士と相談して決めればよい。定形的事件、固い証拠のある事件など、事情によっては簡裁で事足りるケースもあるだろう。
しかし、本人訴訟をするなら本稿に書いた簡裁のリスクは頭に入れておいた方がいいかもしれない。*2
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
警察が被害者に示談を勧めて弁護士の事務所に連れて行くことは普通はない
フリージャーナリストの詩織氏が、準強姦被害を実名顔出しで訴えて話題を呼んでいる。
準強姦はあったかないか不明だからその点については述べない。
ただ、「警察が詩織氏に示談を迫り、頼まれもしないのに詩織氏を警察車両に乗せて、警察の伝手がある弁護士の事務所まで連れて行った」という話は少し私の興味をひいた。
普通ならそういう事態は起こらないと思われるからだ。
警察が示談を勧めて、示談交渉をさせるためわざわざ弁護士の事務所まで連れて行くというのは、民事不介入原則に反する。
民事不介入原則とは、平たくいえば「警察は民事紛争には介入しない」という原則だ。
警察は刑事の被疑者を検挙するのが仕事だから、民事不介入そのものは当然だといえる。
しかし実際には、民事不介入原則は「警察が扱いたくない事件を扱わないための便利な言い訳」として濫用されている。
法的紛争になるような社会的事実は、刑事の紛争か民事の紛争かに分かれるわけではなくて、むしろ一つの紛争に刑事的側面と民事的側面の両面がある場合が多い。
例えば「三浦義隆があなたを殴って全治2週間の怪我を負わせた」という社会的事実があったとする。
三浦義隆は刑事的には傷害罪を犯したから刑罰を受ける。民事的には損害賠償義務を負う。だからこの紛争は、刑事事件でもあり民事事件でもある。
この場合に警察の仕事は、三浦義隆を傷害罪で検挙することだ。三浦義隆から賠償金を取り立てるのは警察の仕事ではない。だから賠償金の取り立てには警察は関与しない。
これが「民事不介入」の正しい意味だ。
しかし、現実の警察は、「三浦義隆が私を殴って怪我させたから傷害罪で検挙してほしい」との訴えに対して、「三浦義隆があなたを殴って怪我させたという証拠がないから、うちでは今扱うつもりはないよ。」くらいのことを、なぜか「民事不介入」で説明することが多い。
この場合に被害者は、「殴られて怪我したから傷害罪で検挙してほしい」というまさに刑事の側面の話をしており、「賠償金を取り立ててくれ」とか言っているわけではない。だから、民事不介入原則には何の関係もない。
警察としても、これを立件できないと判断したなら、正面から刑事の問題であることを認めつつ「証拠不十分だから立件できない。ごめん」と言えばいいだけだ。
しかし、なぜか「民事不介入」という警察官自身もよくわかってない原則を持ち出して門前払いするのが警察の習性だ。特に、立証が容易でない詐欺事件などではそれが顕著だ。
結局、警察は「民事不介入」を、とりあえずそれを唱えておけば被害者が泣き寝入りしてくれる便利な魔法の呪文として運用しているとしか思えない。
このように「民事不介入」は、現実には警察が仕事をしないことの便利な言い訳としてもっぱら機能している。
逆に、本来の民事紛争である示談交渉にまで積極的に警察官が首を突っ込んだ事案は、少なくとも私の業務上見聞きした範囲では存在しなかったし、存在すべきだとも思わない。
だから、詩織氏が警察車両で弁護士の事務所に連れて行かれたという話は、普通はあり得ないことだろうが、仮にそんなことが本当にあったとすれば、その異例さゆえに政治的介入を示す話だなとも思う。
【追記】弁護士の野田隼人氏が、警察官が積極的に示談に介入する事案を経験したことがあるとの情報を提供してくれたので貼り付けておく。
過去に、被疑者が警察官であった事案で一件、経験があります。 https://t.co/H217Bfrocg
— 弁護士 野田隼人 (@nodahayato) 2017年5月30日
被害者側の依頼を受けて対応を検討していたところ,警察官(被疑者の同僚でもあった訳だが。)が当方依頼者を加害者代理人のところへ連れて行った事案。幸い,加害者代理人がちゃんとした人で,依頼者が弁護士に依頼中と述べた時点で当方に確認があり,交渉が打ち切りになった。
— 弁護士 野田隼人 (@nodahayato) 2017年5月30日
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
週刊はてなブログは1→1→4→1→6位
退職を強要される場合や退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか
前回エントリでは、労働者には退職勧奨に応じる義務はないし、むしろ拒んで解雇してもらった方が争いやすいから安易に応じず専門家に相談すべきだということを書いた。
今回はその続編として、
1. 断っても執拗に退職勧奨をされる等の場合どうすべきか
2. 本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか
を書く。
1. 断っても退職を強要される場合どうすべきか
使用者側にも退職勧奨をする自由はある。だから退職勧奨は、労働者の自由な意思形成に働きかけていると評価できる程度のものなら適法だ。
しかし、以下のような退職勧奨は違法(不法行為)となる。
退職勧奨が違法とされる場合の法的効果は、損害賠償請求ができることだ。
ただし、事後的に損害賠償を取っても実効的な救済になるかどうか微妙な場合も多いだろう。
お金を取りたいわけではなく、現に続いている退職勧奨をとにかくやめてほしいという場合は、弁護士や労働組合を通じて、違法な退職勧奨の即時中止を求めることが考えられる。
(1) 過度に執拗な退職勧奨
労働者が退職勧奨に応じない旨を明言しているのに繰り返し頻繁に退職強要を行なうなど、実質的に退職強要と評価される場合は違法。*1
(2) 違法な理由に基づく退職勧奨
退職勧奨の対象者の選定基準など、退職を勧奨する理由がそもそも違法な場合も退職勧奨は違法となる。
例えば、男女で異なる(女性従業員の方が低い)年齢基準を設けて女性に退職勧奨をしたり、女性従業員に対し結婚や妊娠・出産を理由として退職を求めたりする性差別的な退職勧奨が典型。*2*3
また、残業代請求、年次有給休暇取得、育児休暇取得など、労働者が正当な権利行使をしたことを理由に退職勧奨をしたような場合も違法になるだろう。
(3) 退職勧奨のやり方が強要的な場合
退職勧奨のやり方(態様)が不相当で、実質的に退職強要と評価される場合も退職勧奨は違法となる。*4*5*6
2.本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか
上では、退職勧奨が違法になり損害賠償請求をできる場合について述べた。
それでは、本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合、退職をなかったことにはできないか。
実は、なかったことにできる場合がいくつかある。
(1) 退職の意思表示を撤回できる場合
法律用語で意思表示の「撤回」とは、ある意思表示の効果がまだ発生していないうちに、その意思表示をなかったことにする旨の新たな意思表示のこと。
例えば契約は、一方が申し込み、相手方がこれを承諾することによって成立するが、一方が申し込んだだけで相手方が承諾していない段階では、契約成立という効果はまだ発生していない。
契約の申込みをした人も、効果が発生していないのに拘束されるいわれはないから、相手方が承諾する前なら、気が変わったとき申し込みを撤回することができる。
ところで法学上、労働者が仕事をやめたいという意思表示には2種類あるとされている。辞職の意思表示と退職の意思表示だ。
辞職の意思表示は、労働者が、使用者の承諾を求めることなく、一方的に労働契約を解約する旨の意思表示。
労働者には辞職の自由があるから、辞職日から14日以上前に辞職の意思表示をすれば、使用者がうんと言わなくても辞めることができる。以前、
退職の際に有休消化させない企業でも強引に消化する方法 - 弁護士三浦義隆のブログ
というエントリを書いたが、これは一方的だから辞職の意思表示だ。
一方、退職の意思表示は、労使間の合意により労働契約を解約しましょうという申込み。この場合、使用者の承諾により初めて労働契約が終了する。
社内規定にしたがって退職願を提出し、労使双方の協議によって退職日の決定や引き継ぎの話し合いをし…といった一般的な退職手続を踏む場合は、合意退職と考えるべき場合が多い。
したがって、「やめます」と言ったり退職願を提出したりという労働者の行為も、辞職の意思表示でなく退職の意思表示と考えるべき場合が多いだろう。
(辞職ではなく)退職の意思表示ならば、使用者の承諾により合意退職の効果が発生してしまう前は撤回ができる。
ただし退職願を提出してしまった場合は、その退職願が社長や人事部長などによって受理されてしまえばもはや承諾があったものとされ、撤回は難しい場合が多いだろう。退職願を出してしまっても直属の上司預かりになっている状態なら比較的撤回が認められやすいかもしれない。
口頭で「やめます」と口走っただけで何ら退職の手続きが進んでいない状態なら、概ね撤回は認められると思う。
(2)強迫による取消し・錯誤による無効が認められる場合
強迫による取消しとは、脅されてやむなく意思表示をしてしまった場合に、その意思表示を取り消すこと。
民法 第96条 (詐欺又は強迫)
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
強迫とは暴行や監禁、害悪の告知などを指す。
殴る蹴るの暴行をしたり「退職しなければ殺すぞ」などと言ったりすれば当然強迫だが、最もよくある事例としては、適法に解雇できる事由がないのに「退職せよ。さもなくば解雇する」と迫られたので退職してしまったという場合も強迫による退職にあたる可能性がある。*7
一方、実際に適法に解雇できる状況で、解雇を避けるために「退職しなければ解雇する」と述べたような場合は、違法な強迫とはいえないので、退職の意思表示の取消しはできないだろう。
錯誤による無効とは、本来そのような意思表示をするつもりはなかったのに、間違えてしてしまったから、その意思表示は無効だということ。
民法 第95条 (錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
これも強迫の場合と同様に、適法に解雇できる事由がないのに「退職しなければ解雇する」と告げられたので退職してしまったという場合は錯誤無効だ。
というのは、適法に解雇できる事由がないのに解雇する旨を告げられて退職してしまったとすると、「退職しなければ解雇される」という労働者の認識は勘違いだったことになる。だからそのような勘違いによる退職の意思表示は無効だと主張できるわけだ。*8
一方、適法に解雇できる状況なら、「退職しなければ解雇される」と思って退職しても勘違いはないから、錯誤無効の主張はできない。
結局、強迫による取消しを主張する場合でも錯誤による無効を主張する場合でも、「退職しなければ解雇する」と言われて退職してしまった場合の主な争点は
「使用者が本当に解雇していたとしたら、その解雇が解雇権濫用にあたらず有効と認められたか否か」
になってくる。
そして、判例上、解雇はそう簡単に適法とは認められないから、「退職しなければ解雇する」と言われてやむなく退職してしまったような場合は、後からひっくり返せる可能性が高いということになる。
前回エントリで強調したとおり、退職勧奨を受けた場合は決して即答せず専門家に相談するのが基本だ。
しかし、 万一退職勧奨に負けて退職の意思表示をしてしまった場合でも、上記のとおり後からひっくり返せるケースは少なからずある。
不本意に退職させられて納得いかないときは、素人判断で諦めず、弁護士などの専門家に相談してみよう。
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
*1:下関商業高校事件最高裁判決は、使用者が労働者らに対し3~4か月の間に11~13回にわたり出頭を命じ、20分から長いときには2時間にも及ぶ退職勧奨を行なったという事案で、退職勧奨の違法性を認め損害賠償の支払を命じた。
*2:男女で年齢差別をした退職勧奨を違法とした裁判例として鳥取県教育委員会事件。
*3:労働者の妊娠を理由とする退職強要・解雇を違法とした裁判例として今川学園木の実幼稚園事件。
*4:衆人環視の下でことさら侮蔑的な表現を用いてした名誉毀損的な退職勧奨を違法とした裁判例として東京女子医科大学事件。
*5:懲戒免職事由がないのに懲戒免職する旨を告知して退職勧奨した行為を違法とした裁判例として群馬町事件(前橋地判平16.11.26 労判887-84)。
*6:退職強要をし、これに応じない労働者に草むしり等の雑用しか与えない等のパワハラをした行為が違法とされた裁判例としてエフピコ事件。
*7:東京地判昭42・12・20 判時509号22頁、広島高裁松江支部判昭48・10・26判タ303号178頁など多数。
*8:東京地判平23・3・30労判1028号5頁など多数。