弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

「退職してくれ」と言われた場合にとるべき対応

今日は、労働者が使用者から退職勧奨(要するに、「退職してくれ」と言われること)を受けた場合にとるべき対応について書く。*1

 退職勧奨を受けた場合、労働者がまず頭に入れておくべき基本事項は下記の3つだ。 

  1. 退職しろと言われたからといって退職する義務はない
  2. 労働者が自主的に退職しない場合、それでも辞めさせたいなら、使用者は解雇をするしかない
  3. 判例上、解雇はそう簡単に法的に有効とは認められない

 この3点をまとめると、要するに、

労働者が退職勧奨に応じさえしなければ、(解雇が有効になるような事情がない限り)法的には退職せずに済む可能性が高い

ということだ。

もちろん、法的には適法に解雇できない状況だとしても、実際問題として、もはや自分を必要としていない職場で働き続けたいのか?という問題はあるだろう。

復職が実際上困難なのであれば、最終的な着地点はやっぱり退職かもしれない。

しかし、そう簡単に解雇が認められない以上、辞めるかどうかの主導権は基本的に労働者側にあるので、少なくとも、慌てて退職勧奨に応じる必要はない。

退職勧奨を受け入れてしまえばそれまでで、通常もはや争う余地はなくなる。*2

一方、退職勧奨を拒否して解雇されれば、弁護士に依頼して不当解雇として争うという選択肢も出てくる。

私の経験上、不当解雇を争う事案では、最終的に復職する場合もあるが、金銭解決を選択する場合の方が多い。

金額は事案によるので一概に言えないから目安だけ述べると、労働審判を申し立てて調停で処理する場合なら、月給5~12か月分程度が標準的な範囲だと思う。*3

つまり、いずれ退職するとしても、退職勧奨に応じてしまえば何も取れないが、応じなければお金を取れる可能性が出てくることになる。

 

もっとも、使用者側は、法的には解雇できる状況で、温情的に自主退職にしてあげようと思って退職勧奨をしてくる場合もある。(例えば、労働者に重大な落ち度がある場合とか、会社の経営状態が悪く整理解雇が認められる状況である場合など。)

また、人員整理のための退職勧奨であれば、退職金が上積みされる等、有利な金銭的条件を提示される場合もある。

そのような場合には退職勧奨に応じた方が合理的かもしれない。

 

しかし、退職勧奨に応じるか拒否するかの判断を、その場で労働者ができるだろうか。

前記したように、退職勧奨に応じるべきかどうかの判断は、退職勧奨を拒否しても解雇が適法になってしまう状況かどうかに左右される部分が大きい。*4

解雇の有効無効を決定するいわゆる「解雇権濫用法理」は、法規範の中でも抽象性が高く、個別事例への当てはめが特に困難なものの一つだ。

労働契約法 第16条 (解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

法の明文に書いてある基準としては、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効」というざっくりしたものしかない。

このざっくりした基準を具体化するものとして無数の裁判例が蓄積されている。

労働事件を普段やっている弁護士は、裁判例から帰納的に「このくらいまではセーフ、このくらいからアウト」という相場感覚を体得しているから、どうにか個別の事案についてもそれなりの精度で勝ち負けを読めるわけだ。

そういう次第なので、解雇が有効になる状況かどうかをその場で素人が判断するのは、ちょっと無理だろうと思う。

 

その場での自己判断が困難なことを考慮すると、退職勧奨に直面した労働者が、初期対応として心がけなければならないのは、

  • とにかく即答しないこと
  • すぐに弁護士か労働組合か労基署に相談すること

これだろう。

なお、相談先をどうすべきかについては、大まかには以下のようにいえると思う。

  • しつこい退職勧奨を中止してもらって在職し続けたいというような場合は労基に相談
  • 使用者側の退職させたい意思が強固のようなので不当解雇で争いたいというような場合は弁護士に相談
  • 労組はいずれの場合でも有りだと思う。弁護士の伝手がある場合も多いので、弁護士が必要な案件なら労働事件に強い弁護士を紹介してくれるかもしれないし。

「お前は要らない」と言われた労働者としては、絶望的な気持ちになり、つい売り言葉に買い言葉で「辞めます」と即答してしまいがちだと思うが、それをやってしまうと損をする可能性が高い。

くれぐれも後悔することのないよう、頭に入れておいてほしい。

【続編】退職を強要される場合や退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか - 弁護士三浦義隆のブログ

 

京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表

弁護士 三浦 義隆

https://otakalaw.com/

 

 

 

 

 

*1:本稿は、私が2013年頃にやっていたアメブロの記事を改稿したもの。

*2:ただし、「退職せよ。さもなくば解雇する」などと言われたような場合には争う余地も出てくる。

*3:もっと低い水準を述べる弁護士もいるが、少なくとも私は、不当解雇で5か月分未満で調停したことはないし、する理由もないと思う。特に、3~6か月分が相場などと言っている人は、安易に妥協しているのではないかと疑問を持ってしまう。解雇が有効か無効かきわどい案件で、痛み分け的解決をする場合なら別だが。

*4:どのみち適法に解雇されてしまう状況なら自主退職の方がマシだといえる。失業保険上も、退職勧奨に応じて自己都合退職した場合は特定資格受給者にあたり給付制限を受けないので、会社都合退職と同じ扱いになるし。