弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

退職を強要される場合や退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか

前回エントリでは、労働者には退職勧奨に応じる義務はないし、むしろ拒んで解雇してもらった方が争いやすいから安易に応じず専門家に相談すべきだということを書いた。

今回はその続編として、

1. 断っても執拗に退職勧奨をされる等の場合どうすべきか

2. 本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか

を書く。

1. 断っても退職を強要される場合どうすべきか

使用者側にも退職勧奨をする自由はある。だから退職勧奨は、労働者の自由な意思形成に働きかけていると評価できる程度のものなら適法だ。

しかし、以下のような退職勧奨は違法(不法行為)となる。

退職勧奨が違法とされる場合の法的効果は、損害賠償請求ができることだ。

ただし、事後的に損害賠償を取っても実効的な救済になるかどうか微妙な場合も多いだろう。

お金を取りたいわけではなく、現に続いている退職勧奨をとにかくやめてほしいという場合は、弁護士や労働組合を通じて、違法な退職勧奨の即時中止を求めることが考えられる。

(1) 過度に執拗な退職勧奨

労働者が退職勧奨に応じない旨を明言しているのに繰り返し頻繁に退職強要を行なうなど、実質的に退職強要と評価される場合は違法。*1

(2) 違法な理由に基づく退職勧奨

退職勧奨の対象者の選定基準など、退職を勧奨する理由がそもそも違法な場合も退職勧奨は違法となる。

例えば、男女で異なる(女性従業員の方が低い)年齢基準を設けて女性に退職勧奨をしたり、女性従業員に対し結婚や妊娠・出産を理由として退職を求めたりする性差別的な退職勧奨が典型。*2*3

また、残業代請求、年次有給休暇取得、育児休暇取得など、労働者が正当な権利行使をしたことを理由に退職勧奨をしたような場合も違法になるだろう。

(3) 退職勧奨のやり方が強要的な場合

退職勧奨のやり方(態様)が不相当で、実質的に退職強要と評価される場合も退職勧奨は違法となる。*4*5*6

2.本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合どうすべきか

上では、退職勧奨が違法になり損害賠償請求をできる場合について述べた。

それでは、本意でないのに退職勧奨に応じてしまった場合、退職をなかったことにはできないか。

実は、なかったことにできる場合がいくつかある。

 (1) 退職の意思表示を撤回できる場合

法律用語で意思表示の「撤回」とは、ある意思表示の効果がまだ発生していないうちに、その意思表示をなかったことにする旨の新たな意思表示のこと。

例えば契約は、一方が申し込み、相手方がこれを承諾することによって成立するが、一方が申し込んだだけで相手方が承諾していない段階では、契約成立という効果はまだ発生していない。

契約の申込みをした人も、効果が発生していないのに拘束されるいわれはないから、相手方が承諾する前なら、気が変わったとき申し込みを撤回することができる。

ところで法学上、労働者が仕事をやめたいという意思表示には2種類あるとされている。辞職の意思表示と退職の意思表示だ。

辞職の意思表示は、労働者が、使用者の承諾を求めることなく、一方的に労働契約を解約する旨の意思表示。

労働者には辞職の自由があるから、辞職日から14日以上前に辞職の意思表示をすれば、使用者がうんと言わなくても辞めることができる。以前、

退職の際に有休消化させない企業でも強引に消化する方法 - 弁護士三浦義隆のブログ

というエントリを書いたが、これは一方的だから辞職の意思表示だ。

一方、退職の意思表示は、労使間の合意により労働契約を解約しましょうという申込み。この場合、使用者の承諾により初めて労働契約が終了する。

社内規定にしたがって退職願を提出し、労使双方の協議によって退職日の決定や引き継ぎの話し合いをし…といった一般的な退職手続を踏む場合は、合意退職と考えるべき場合が多い。

したがって、「やめます」と言ったり退職願を提出したりという労働者の行為も、辞職の意思表示でなく退職の意思表示と考えるべき場合が多いだろう。

(辞職ではなく)退職の意思表示ならば、使用者の承諾により合意退職の効果が発生してしまう前は撤回ができる。

ただし退職願を提出してしまった場合は、その退職願が社長や人事部長などによって受理されてしまえばもはや承諾があったものとされ、撤回は難しい場合が多いだろう。退職願を出してしまっても直属の上司預かりになっている状態なら比較的撤回が認められやすいかもしれない。

口頭で「やめます」と口走っただけで何ら退職の手続きが進んでいない状態なら、概ね撤回は認められると思う。

(2)強迫による取消し・錯誤による無効が認められる場合

強迫による取消しとは、脅されてやむなく意思表示をしてしまった場合に、その意思表示を取り消すこと。

民法 第96条 (詐欺又は強迫)

1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

強迫とは暴行や監禁、害悪の告知などを指す。

殴る蹴るの暴行をしたり「退職しなければ殺すぞ」などと言ったりすれば当然強迫だが、最もよくある事例としては、適法に解雇できる事由がないのに「退職せよ。さもなくば解雇する」と迫られたので退職してしまったという場合も強迫による退職にあたる可能性がある。*7

一方、実際に適法に解雇できる状況で、解雇を避けるために「退職しなければ解雇する」と述べたような場合は、違法な強迫とはいえないので、退職の意思表示の取消しはできないだろう。

錯誤による無効とは、本来そのような意思表示をするつもりはなかったのに、間違えてしてしまったから、その意思表示は無効だということ。

民法 第95条 (錯誤)

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 これも強迫の場合と同様に、適法に解雇できる事由がないのに「退職しなければ解雇する」と告げられたので退職してしまったという場合は錯誤無効だ。

というのは、適法に解雇できる事由がないのに解雇する旨を告げられて退職してしまったとすると、「退職しなければ解雇される」という労働者の認識は勘違いだったことになる。だからそのような勘違いによる退職の意思表示は無効だと主張できるわけだ。*8

一方、適法に解雇できる状況なら、「退職しなければ解雇される」と思って退職しても勘違いはないから、錯誤無効の主張はできない。

結局、強迫による取消しを主張する場合でも錯誤による無効を主張する場合でも、「退職しなければ解雇する」と言われて退職してしまった場合の主な争点は

「使用者が本当に解雇していたとしたら、その解雇が解雇権濫用にあたらず有効と認められたか否か」

になってくる。

そして、判例上、解雇はそう簡単に適法とは認められないから、「退職しなければ解雇する」と言われてやむなく退職してしまったような場合は、後からひっくり返せる可能性が高いということになる。

 

前回エントリで強調したとおり、退職勧奨を受けた場合は決して即答せず専門家に相談するのが基本だ。

しかし、 万一退職勧奨に負けて退職の意思表示をしてしまった場合でも、上記のとおり後からひっくり返せるケースは少なからずある。

不本意に退職させられて納得いかないときは、素人判断で諦めず、弁護士などの専門家に相談してみよう。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

http://otakalaw.com/

 

 

 

 

 

*1:下関商業高校事件最高裁判決は、使用者が労働者らに対し3~4か月の間に11~13回にわたり出頭を命じ、20分から長いときには2時間にも及ぶ退職勧奨を行なったという事案で、退職勧奨の違法性を認め損害賠償の支払を命じた。

*2:男女で年齢差別をした退職勧奨を違法とした裁判例として鳥取県教育委員会事件

*3:労働者の妊娠を理由とする退職強要・解雇を違法とした裁判例として今川学園木の実幼稚園事件

*4:衆人環視の下でことさら侮蔑的な表現を用いてした名誉毀損的な退職勧奨を違法とした裁判例として東京女子医科大学事件

*5:懲戒免職事由がないのに懲戒免職する旨を告知して退職勧奨した行為を違法とした裁判例として群馬町事件(前橋地判平16.11.26 労判887-84)。

*6:退職強要をし、これに応じない労働者に草むしり等の雑用しか与えない等のパワハラをした行為が違法とされた裁判例としてエフピコ事件

*7:東京地判昭42・12・20 判時509号22頁、広島高裁松江支部判昭48・10・26判タ303号178頁など多数。

*8:東京地判平23・3・30労判1028号5頁など多数。