弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

退職の際に有休消化させない企業でも強引に消化する方法

年次有給休暇(以下、「有休」という。)は労働者の権利だ。

6か月以上の継続勤務や、対象期間の労働日の8割以上出勤などの要件はあるが*1、そうした要件さえ満たせば、どの企業でも付与される。

法律上当然に付与されるし、就業規則などに有休を与えない旨の定めを置いてもそんな定めは無効だから、「我が社には有休制度はない」などの主張は通らない*2

ただ、そうはいっても有休を取りたいと言い出せなかったり、申し出ても一蹴されたりして、有休を消化できていない労働者が多いのが現実だ。

有休をきちんと消化させない企業でも退職時には消化させる例が多いようだが、退職時にさえ消化させない悪質な企業もある。

しかし、有休を与えないという悪質な労務管理をされても黙っている労働者が多いのは、社内での立場が悪くなると困るからだろう。退職時には立場を気にする必要はない。

例えば、全く有休を取れておらず勤続期間が7年半以上に及ぶケースでは、未消化の有休は、時効が成立していない分だけでも40日にもなる。40日といったら月給ほぼ2か月分だ。勤続期間が1年半でも有休は21日だから、月給ほぼ1か月分。

きちんとしたやり方で権利主張さえすれば取れる公算が高いのだから、泣き寝入りする手はないだろう。

では、どういうやり方で権利主張すればよいか。

一言でいうと、

「弁護士に依頼して辞職の意思表示を内容証明でしてもらう。そこに有休取得の意思表示も書いてもらう」だ。*3

ただし、成功率は下がると思うが一般人(ここで一般人とは行政書士を含む。)でもできないことはない。*4

以下に少し具体的にやり方を書いておく。

 

1. まず最終出勤日と辞職日を決める。

最終出勤日は好きな日にすればよい。

最終出勤日を決めたら、有休の残日数を確認し、最終出勤日の翌日から、元々休みになっている日は飛ばして1日ずつ有休を割り当てていく。

有休が尽きる日が辞職日ということになる。

2. いつ辞職の意思表示をするかを決める。

雇用期間の定めのないいわゆる正社員の場合、通常は、辞職したい日の14日前までに辞職の予告をすればよい。*5*6*7

この辞職予告期間は休日を含んで14日だ。当然有休の日も含む。

だから、有休の残日数次第では、辞職の意思表示をした後、1日も出勤せずに辞めることも可能だ(ここ重要。権利主張をした後に出勤することによる気まずい思いを避けることができる。)。*8

3. 内容証明を書いて出す。

「私は、XX年XX月XX日を最終出勤日として、以後年休を消化し、消化し終えるXX年XX月XX日限り貴社を辞職します。」という旨と、年休消化分の給料を請求する旨、請求に応じない場合は民事訴訟等の法的手段に訴える旨を明確に記載する。

辞職の意思表示をした後1日も出勤せずに辞める前記の方法をとる場合は、到着予定日に注意しよう。

4. 内容証明に書いた最終出勤日以後は出勤せず、有休分の給与が振り込まれるのを待つ。

 

これだけ。

過去に私は同種の内容証明を何度も出しているが、今のところこれで支払われなかった経験はない。

法的に勝ち目がないのは企業側もわかるし、弁護士までついているとなれば無視しても訴えられて負けるだけだから、普通は素直に払うしかないわけである。

ただし、企業が夜逃げしてしまうといった例外的ケースもないではないから、必ずうまく行くというものではないが。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

 http://otakalaw.com/

 

 

 

 

 

 

 

*1:労基法39条。(第39条)年次有給休暇 | 大阪労働局

*2:労基法1条2項

*3:参考までに私の場合の弁護士費用を書いておくと、内容証明だけなら5万円くらい。その後の交渉まで生じる場合は10万円くらい。個別の事情により増減はあり得る。

*4:一般人(行政書士を含む。)がやると成功率が下がる理由は、まず内容的に正しく権利主張できるか心もとないというのが一点。加えて、内容が正しかったとしても、素人からの内容証明では、相手に与える「無視したり拒んだりすれば訴訟になるぞ」という心理的圧力が弱いというのが一点。

*5:民法627条1項

*6:例外として、遅刻や欠勤をしても給料から控除されないいわゆる完全月給制の場合は、民法627条2項が適用されて、辞めたい給与計算期の前半までに予告する必要があると考えられている。例えば給料計算が毎月末日締めの場合、6月15日に予告すれば6月30日限り辞職できるからあまり変わらないが、予告が6月16日になってしまうと7月31日まで辞職できないから随分長くなる。

*7:就業規則では1か月とか2か月とか、法定の14日より長い予告期間を定める例が多い。このような就業規則の有効性について最高裁判例はないが、無効(つまり就業規則は無視して14日前予告で退職できる)と解するのが多数説であろう。その旨の下級審裁判例もある。

*8:このようなやり方は不義理ではないかとの疑念もあろうが、そりゃ一般的には不義理だろう。まともな会社ならちゃんと有給消化させて辞めさせてくれるから、労働者もこのようなやり方は普通は避けるだろう。有休も消化させずに働かせるようなブラック企業には、相応の対抗手段があるということだ。