弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

叱責はどこからパワハラになるか

国会議員が秘書に対し、殴ったり暴言を吐くなどのパワハラをした件が話題になっている。

私もネット上に公開されていた録音を聴いたが、あまりのひどさに驚いた。文句なしに不法行為であろう。

行為そのものは非難に値するが、加害者も精神的にケアが必要な状況ではないかという気がする。被害者にきちんと謝罪や損害賠償をするとともに、加害者もしっかり療養してほしい。

 1.  パワハラは線引きも立証も難しい

ところで、話題の議員の件くらいひどい事案なら問題はないが、一般的には、パワハラは判断も立証も難しい類型だ。

何しろ上司は部下に対し、業務上必要な指導・注意であれば適法に行えることになっている。指導・注意が多少きつい叱責に及んだとしても、社会通念上相当な範囲であれば違法とまでは評価されない。

そのため、適法な指導・注意と違法なパワハラの線引き問題が生じる。この点、同じハラスメントでもセクハラは職場で性的言動をする必要が通常ないから、適法な職務執行との線引きという問題は生じにくいのと対照的だ。

線引きの難しさを反映して、立証にも困難が伴うことが多い。

加害者の発言について、全体としての内容だけでなく一つ一つの言葉選びや口調なども重要な要素となるから、録音などの証拠があるのが望ましい。

民事訴訟においては秘密録音でも問題なく証拠採用されるのが通常なので、パワハラを受けている人は躊躇なく録音しよう。

2.  叱責はどこからパワハラになるか

では、上司が部下を叱責した場合、その言動が業務上の指導・注意の範囲を超えて違法なパワハラとされるのはどのような場合か。

これは一律に述べるのは難しい。

例えば部下の側に叱責されるべき落ち度があって、しかもその落ち度が大きいときには、比較的きつめの叱責でもセーフとされる余地がある。このように、具体的状況によって判断が異なってくるからだ。

しかし多数の裁判例を見ていくと、目安として以下のようなことはいえる。

2-1. 物理的暴力はアウト

まず物理的暴力はいくら部下に落ち度があろうとアウト。当たり前だ。*1

2-2. 「馬鹿」などの人格否定的発言もアウト

「馬鹿」「アホ」「死ね」「殺すぞ」などの人格否定的、名誉毀損的、あるいは脅迫的な暴言も、部下に落ち度があってもアウト。これも常識にかなった話だろう。

前記の議員による「このハゲー!」もここでアウトだろう。

「給料泥棒」「使えない」といった発言がパワハラと認定されている例も多い。

ちなみに、「殺すぞ」などと言う奴いるの?と思われるかもしれないが、上司による「(ぶっ)殺すぞ」との発言が認定されている裁判例は、実はけっこう多い。

2-3. 退職を迫ったり解雇や懲戒処分などを示唆する発言はパワハラになりやすい

これもパワハラと認定されやすい。

もちろん、平穏な退職勧奨であれば適法に行なう余地はある。しかし、必要もないのに、部下の生殺与奪を握っていることを誇示するために退職や解雇に言及したような場合はパワハラとされるだろう。

2-4. 他の人がいる前で叱責したりするとパワハラになりやすい

名誉毀損と関連するが、他の従業員などがいる前で叱責する行為は、過度の屈辱感を与えるためパワハラと認定されやすい。

2-5.いずれにせよ強い叱責はパワハラのリスクが高い

暴力をふるったり馬鹿呼ばわりしたりという極端な行為であれば、「言われなくてもそんなことしないよ」という人が多いかもしれない。

しかし、そこまでは行かない言動で、かつ部下側に落ち度があったとしてもパワハラと認定されている例は多い。

例えば、

  1. 弁護士法人レアール事件(東京地判平27・1・13判時2255-90)では、弁護士法人の事務局長が、部下である事務員が依頼者に請求すべき債務整理の減額報酬を計上し忘れるというミスをしたことに対し、「はぁ~??時効の事ムで受任(@五二五◯◯)じゃないんでしょ?なぜ減額報酬を計上しないの?ボランティア??はぁ~??理解不能。今後は全件丙田さんにチェックしてもらう様にして下さい」と手書きしたA4用紙を本人の机の上に置いた行為が不法行為とされた。
  2. 東京高判平17・4・20労判914-82は、保険会社のサービスセンター(SC)所長が、未処理件数が多いなどの落ち度のあった課長代理に対し、本人を含む従業員十数名にメールを同時送信する方法で、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。(中略)これ以上会社に迷惑をかけないで下さい。」などと述べた行為が不法行為とされた。
  3. 富国生命ほか事件(鳥取地裁米子支判平21・10・21労判996-28)は、保険会社の支社長らが、マネージャーであった原告に対し、①不告知教唆という不正行為の有無を他の従業員がいる前で問いただした行為、②「マネージャーが務まると思っているのか。」「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない。」などと叱責した行為がいずれも不法行為とされた。

こんな感じ。

どうだろうか。このくらいの言動だと、身近で見たことある、あるいはやってしまっている・やられているという人もそれなりにいるのではないか。

現在パワハラに該当するおそれのある行為をしている人や、している従業員に心当たりのある経営者は、今後は部下を過度に傷付けない平穏な指導注意を行なうよう、くれぐれも注意してほしい。

反対に、現在上司から過度の叱責などを受けて苦しんでいるという人は、可能な限り録音などの証拠を収集した上で、弁護士に相談するとよいだろう。

3.参考文献

佐々木亮・新村響子著「ブラック企業 ・セクハラ・パワハラ対策(労働法実務解説10 )」を参考にした。一線級の労働弁護士が書いたもの。

様々な論点についてほどよい分量の記述があり、判例も多数紹介されている良書だ。

法律実務家のみでなく、企業の人事担当者なども読んでおくとよいだろう。

ブラック企業・セクハラ・パワハラ対策 (労働法実務解説10)

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弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

 http://otakalaw.com/

 

 

 

 

 

*1:物理的暴力が認定された事件として、ヨドバシカメラほか事件(東京地判平17・10・4労判904-5)、ファーストリテイリングほか事件(名古屋高判平20・1・29労判967-62)など。