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弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

重婚罪の成立・立件は現実的にあり得るか

ここ2日ほど、政治家のスキャンダル絡みで、「重婚」という単語がネット上によく出現している。

私はそのスキャンダルには全く興味がないから、本稿はそのスキャンダルの報道などを何も見ずに書いていることを先にお断りしておく。

twitter等で、「現代日本の戸籍実務の下で、重婚なんて起こり得るの?」という疑問を述べる人が散見される。

結論から言うと、重婚は起こり得る。

離婚が成立するための形式的要件は離婚届の提出だが、実質的要件として、夫婦双方の離婚意思が必要になる。

だから、例えば夫婦の一方が配偶者に無断で離婚届を作成し提出し、これが受理されて、戸籍上離婚したかのように見える状況となっても、法律上はそのような離婚は無効だ。

離婚が無効だということは、法律上、その夫婦は変わらず夫婦のままということだ。

そこで、先に無断で離婚届を作成提出した当事者(Aとしよう)が、別の人と「再婚」することにして婚姻届を提出した場合どうなるか。

Aは法律的には婚姻中なのだが、戸籍上は独身に見えるから、婚姻届は受理されてしまう。

この婚姻が法律的に無効なら、有効なのは前の婚姻だけだから重婚は生じないことになるが、実はそうではない。

(不適法な婚姻の取消し)

第七百四十四条  第七百三十一条から第七百三十六条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。

  第七百三十二条又は第七百三十三条の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消しを請求することができる。

(重婚の禁止)

第七百三十二条  配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

「重婚にあたる婚姻は取消すことができる」というのが民法のルールだ。

取消すことができるというのは、無効とは違って、取消されるまでは有効という意味である。

だから、このような場合には、

1. 前の婚姻の離婚は無効だから前の婚姻はまだ存在する

かつ

2. 後の婚姻も取消されるまでは有効に存在する

ということで、重婚になってしまうわけである。

夫婦の一方が離婚届を無断で提出しそれが受理されるという事態は現実にしばしばある。

その後に当事者の一方が「再婚」してしまい重婚状態になる事態も、そんなに稀ではないだろう。

実際、判例検索システム(私が使っているのは「判例秘書」)で検索しても、前の婚姻の離婚無効と後の婚姻の婚姻取消が認められた事例は少なくない。

だから冒頭に述べたように、重婚は現代日本においても普通に起こり得るといえる。

もっとも、民法上重婚にあたる場合があるとしても、それが刑法上の重婚罪にあたるかは別問題だ。

 

(重婚)

第百八十四条  配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。

この刑法184条の解釈として、「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたとき」にあたるためには、戸籍上の婚姻が重複する必要があると主張する見解がある。

この見解によれば、無効な離婚届が受理された後に当事者が「再婚」して重婚になったような場合、戸籍上は後の婚姻しか存在しないから、重婚罪は成立しない。

この見解からは、重婚罪は、既に戸籍上の婚姻をしている人が婚姻届を出してきたのに役所がミスって受理してしまったという、ほとんどありそうもない場合にしか成立しないことになる。

しかし、裁判所はそのような見解を採用していない。名古屋高裁昭和36年11月18日判決を一部引用する。

思うに、重婚罪に関する規定が、民法の諸規定と相俟つて、そして、その側面から法律婚としての一夫一婦制を維持強行するための規定であることを考えれば、本件の如く前婚が婚姻当事者一方の意思によらず、偽造若は虚偽の協議離婚届により解消し、従つて、戸籍上その婚姻関係が抹消された場合でも、その婚姻関係が適法に解消されない間に、重ねて他の婚姻関係(勿論それは法律婚であることを要件とする)を成立させれば、刑法所定の重婚罪が成立するものと解すべきである。蓋し、斯る場合、前婚の解消が当事者(一方又は双方)の真意に合致しないものである以上、仮りにそれが犯罪(私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使等)又は犯罪的手段により戸籍上の婚姻の記載が抹消されたとしても、その婚姻の解消は無効であつて前婚は、それが適法に解消されない限り、なお法律婚として有効に存続するものというべく、従つて、この間において重ねて他の婚姻関係を成立させれば、ここに法律婚として二個の婚姻関係が重複して成立するわけで、法律の所期する一夫一婦婚制度は、破壊されることになるからである。

要するに、偽造や虚偽の離婚届によって外見上は前の婚姻が解消されても、法律的には婚姻は存続してるんだから重婚なわけで、一夫一婦制保護という重婚罪の立法目的から考えると、戸籍上重婚に見えないとしても法律上の婚姻が重複しておれば一夫一婦制を破壊する行為であることに間違いはないから、重婚罪は成立するよ。という話だ。これはまっとうな解釈であろう。

このように、現代日本においても、民法上も刑法上も重婚はあり得る。

ただし重婚罪の裁判例は、「判例秘書」搭載のものは前掲の昭和36年判決が最後のようだ。

勿論、判例集に掲載されない裁判例が存在している可能性は否定できないが、昭和36年以後も離婚無効や婚姻取消は続々出ているのに、重婚罪での立件・有罪事例は実務上も目にすることが全然ない(少なくとも私は一度も見たことない)。

おそらく無効な離婚届の提出などにより重婚状態が発生しても、捜査機関はいちいち立件しないというのが現在の捜査実務なのではないか。

今話題の政治家氏にしても、具体的事実関係は知らないが、仮にこれが法律上重婚罪にあたるような行為だったとしても、立件されることはおそらくないだろう。

 

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

http://otakalaw.com