弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

「ソシャゲ破産は免責されない」は誤り

 1. 「ソシャゲ破産は免責されない」との誤情報は人を殺す

先日Twitterで、「ソシャゲ課金で破産しても免責を受けられないから債務が残る」という趣旨のツイートが大量に拡散されたようだ。

結論から述べるとこれは誤りだ。

既に私以外の複数の弁護士がTwitterなどで誤りを指摘している。

6月19日20時30分現在、Twitter検索によって問題のツイートを見つけることができなかったから、当該ツイートは既に削除されたのかもしれない。そうだとしたら、誤りだということに気付いて削除したということなのだろう。

しかし、誤った情報が一度多くの人に拡散されてしまうと、これを修正するのはなかなか困難だ。

実際、誤りを指摘する弁護士らのツイートは、どれもあまり拡散されていなかった。

そこで私も書いておくことにした次第。

私は、この破産免責に関する誤った情報は、あらゆる法律関係の誤情報の中でも有害性が高いと思う。

このような誤情報は、債務者を死に至らしめる可能性すらあるからだ。

自死の原因として借金苦が多いことは誰でも知っていると思う。弁護士をしていると、債務整理の依頼者が「自殺も考えた」と述べて相談室で涙を流すといったことは決して珍しくない。

しかし、弁護士のところまでたどり着いた人は債務を整理できるから死なない。弁護士費用が捻出できない人には法テラスによる援助制度もあるし。

自己破産や個人再生といった制度を知らなかった人、知っていても何らかの理由で利用できないと思いこんでしまった人が、弁護士に相談することもないまま亡くなるケースが相当数あるのだろう。歯がゆいものがある。

一因として弁護士業界の広報不足もあると思うので、もっと努力しなければならないだろう。

2. 浪費や射幸行為は免責不許可事由だが裁量免責は可能

2-1. 浪費や射幸行為は免責不許可事由

素人が「ソシャゲ破産は免責されない」と思い込んでしまう理由は想像がつく。

破産法252条1項4号が、免責不許可事由として、「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」を挙げているからだ。

破産法 第252条  裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。

  債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。

  破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。

  特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

四  浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。 

債務者が過度に高額のソシャゲ課金をした場合、「浪費又は賭博その他の射幸行為」にあたることは間違いない。

だから免責不許可事由にあたり、免責してもらえない可能性がある。ここまでは間違っていない。

これはソシャゲ課金に限らず、FXなどの投機的取引でも、パチンコや競馬などのギャンブルでも、風俗やキャバクラ遊びなどでも同じだ。過度の無駄遣いをした結果の破産であれば、免責してもらえない可能性はある。

2-2. 免責不許可事由があっても多くの事例では裁量免責される

「免責されない可能性がある」、一応そこまでは正しい。

重要なのはその先だ。例えば盲腸の手術だって死ぬ可能性はあるだろうが、「盲腸でも死ぬ可能性がある」と述べただけでは情報として役に立たないだろう。

では実際のところどうなのか。ざっくり言うと、以下のようになっている。

  • 免責不許可事由がある場合でも、「裁量免責」という制度があるため免責は可能(破産法252条2項)
  • 実際上、裁判所は裁量免責を広く認めている
  • 弁護士の実務的な相場感覚としては、弁護士が代理人としてしっかり準備をした上で裁量免責を求めた場合、たいてい免責は認められる

したがって、ソシャゲ破産だからといって免責が絶望的ということは全くない。

実際に免責されるか否かは個々の事情の総合判断によるとしか言いようがないが、一般論として、

  • 債務の額が極端に大きい場合
  • 返せないとわかった後に更に多額の債務負担を繰り返したり、破産手続に際して裁判所に虚偽を述べるなど、悪質な事情がある場合

などは免責不許可に傾きやすいといえる。

いずれにせよ、免責見込みがあるかないかの判断は素人にできるものではない。

そして、依頼者がネットで聞きかじってきた知識で「免責されないのでは」と不安がる案件でも、弁護士から見ると免責可能なことがほとんどだ。*1

くれぐれも、ネット上の断片的な知識で免責されないと思いこんで諦めたりせず、弁護士に相談するようにしてほしい。

「私は借金なんかしないから大丈夫」という人でも、近しい人が借金苦に陥るといったことはあり得ないでもないから、頭の隅にでも入れておいてほしい。

3. とはいえ過度の浪費は禁物

以上述べたように、もしソシャゲ重課金などの浪費行為で大きな債務を負ってしまったとしても、まだまだ希望はあるので諦めないでほしい。

しかし、まだ債務を負っていない人にアドバイスするなら話は別になる。

裁量免責となる場合が多いとはいえ、浪費や射幸行為が免責不許可事由にあたるのは間違いない。

したがって、浪費などをして破産申立をする人は、裁判所の裁量次第で免責が許可されないかもしれないという不安定な状況に追い込まれることになるわけだ。実際に免責されない場合もあることは既に述べたとおり。

仮に免責が許可されるとしても、そもそも破産すること自体、その後数年はいわゆるブラックリストに入り新たな借入れやクレジットカードの契約が難しくなるなど、一定の不利益を伴う事態だ。

もちろん返済不能なほどの多重債務に陥ってしまったらもはやブラックリストなんか気にせず躊躇なく破産すべきだが、多重債務に陥ること自体、避けられるなら避けた方がいいに決まっている。

だから、ソシャゲにせよFXにせよ賭博にせよ、自らの収入で無理なく支払える範囲を超えた過度の支出はすべきでない。

裁量免責を期待して計画的に浪費するような人がそうそういるとも思えないから蛇足かもしれないが、念のため付言しておいた。

京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表

弁護士 三浦 義隆

https://otakalaw.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:本稿よりももう少し詳しく書いてある弁護士のブログとして、鈴木愛子氏のブログを紹介しておく。破産に注力していて管財人経験も豊富な弁護士なので信頼性は高い。