弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

スマホを「注視」しなくても切符を切ろうとする警察官に注意

目次

 

1. 違反をしていないのに切符を切られそうになった件

2週間ほど前のこと。私は仕事の移動のため、地元の走り慣れた道を車で走っていた。

見通しのよい広い道の少し先で、対面の信号が黄色に変わるのが見えた。この信号の変わりばなに引っかかると、1分以上は停止することになる。

私は信号に向けて減速しながら、目の前のホルダーに左手を伸ばしてスマホを取った。

そしてスマホを左手に持ったまま減速しつつ進行し、信号待ちの数台の車列の最後尾に停車した。停車後にスマホを見て、LINEのメッセージが来ているのを確認した。

すると、後方からパトカーがやってきて、私の車の右に停まった。パトカーの窓が開いて、警官は「この信号を過ぎたところで左に寄せて停まってください」という。

 

スマホの件で難癖をつけようとしていることは察しがついた。ひとまず言われたとおりに左に寄せて停まった。

「今スマホ使ってたでしょ」と、パトカーから降りてきた警察官。案の定だ。

「いや、赤信号で停止中に使ってただけですよ」

「走行中から手に持ってたでしょ。信号の手前のパチンコ屋の駐車場からずっと見てたんですよ」

「ええ、たしかに手に持ってましたね」

「そうでしょ。それではこの切符に」

「切符ならサインしませんよ」

「えっ?」

「注視してないから」

「でも手に持ってたって認めたじゃないですか」

「手に持つのが違反じゃないでしょ。注視するのが違反でしょ」

「でも注視してたんじゃないんですか。見ないのに何で手に持つの?」

「私はきちんと前を見て運転していて、前方の信号が赤になりそうなのが見えた。だから停止したときにスマホを見ようと思って、左手を伸ばしてホルダーから外した。左手に持ったまま前を見て走行し、赤信号で停止してから見た。前を見ていたからこそ、信号待ちの列の後ろに適切な車間距離を保って停止できた。私が適切に減速して適切な車間距離で停止したのは、あなた方も確認したでしょう」

「…本当に注視してないんですか」

「本当です」

「わかりました。では今回は注意のみで済ませます」

「いや、何も違反行為はしてないし、違反かどうかは置いといて危険な行為もしてないから、注意される理由もないと思いますけど。ところで今日はたまたま私が法律知ってたからよかったけど、普段はスマホを手に持ってることだけ目視で確認したらこうやって切符にサインさせてるんですか。それ、実際は違反してない人にも沢山サインさせちゃってるということでは」

「いや、そんなことは…」

「まあいいです。もう行っていいですか。仕事中なので」

「念のため免許証だけ確認させてください」

「いいですよ。どうぞ」

2名中1名の警察官が私の免許証を持っていったんパトカーに戻り、免許証をデータベースと照合したらしい。また戻ってきて、相方に「何もなし」というようなことを小声で言った。

「それでは結構です。お時間取らせて申し訳ありませんでした」

「いえいえ。お仕事頑張ってください」

多少時間は取られたが、これにて一件落着。

 

2. 道交法の携帯電話などの規制の解説

2-1. 道交法71条5号の5

上で問題になっていたのは、道路交通法71条5号の5の規制だ。

道路交通法

第71条(運転者の遵守事項)

車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。

(中略)

5の5  自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号 若しくは第十七号 又は第四十四条第十一号 に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

 

 長ったらしい条文だが、要するにこの規定は、次の2つの行為を禁止している。

  1. 自動車等を運転中(停止中は除く)に、手で保持しなければ送信・受信ともにできない携帯電話などの無線通話装置を通話のために使用すること。*1
  2. 自動車等を運転中(停止中は除く)に、自動車等に取り付けられ、もしくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視すること。*2

2-2. 「注視」とはどのような行為か

上記の禁止行為のうち私が疑われたのは、「自動車等に」「持ち込まれた」「画像表示装置」であるスマートフォンに「表示された画像」を「注視」したという行為だ。

「注視」とはどのような行為を指すか。日常語としては、「じっと見つめること」といったところだろう。

この規定が新設されるに際して警察庁が発した通達においても、「注視」とは「見続けること」とされている。「注視」にあたるか否かが争いになった裁判例は見当たらなかったが、チラッと一瞥する程度なら「注視」にあたらないことは間違いないだろう。*3

私は、どう考えても「注視」していなかったのに反則切符を切られそうになったから、上記のように「注視」していない旨を説明し、理解を得たわけである。*4

警察官としても、遠目に目視するだけではドライバーの顔や目の動きまでは追いきれないだろう。だから、スマホなどを手に持っている人をとりあえず停めて質問すること自体はやむを得ない面があると思う。

しかし、手に持っているだけで違反になるかのような言辞を弄して反則切符にサインさせようとするのは感心しない。法律を知らない一般のドライバーの大半は、そういうものかと思ってサインしてしまうだろうから、いわば「反則冤罪」を大量に発生させかねない。

警察の運用も改善してほしいものだが、ひとまず本ブログの読者は、「注視」が反則の要件になっていることを頭に入れて、自衛するようにしてほしい。

3.追記

「手に持っているだけだったのに切符を切られた」「停止中だったのに切符を切られた」といったツイートが複数寄せられたので紹介しておく。

 

 

 

警察官が見間違えて、ドライバーが走行中に注視したと思い込んで停止させたなら致し方ない面もあろう。

しかし、紹介したツイートのように、警察が「手に持ってるだけでアウト」とか「(停止中でも)携帯持ってるだけで違反」とか、明らかに法律の規定に反する内容の嘘までついて切符を切っているなら、これは単なる勘違いよりもよほど由々しき問題だ。

こういう目に遭いそうになったら、警察官の言い分が法の規定に反することを指摘して、サインは拒むべきであろう。

京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表

弁護士 三浦 義隆

https://otakalaw.com/

*1:「通話すること」ではなく「通話のために使用すること」が禁じられているので注意。この規定の仕方だと、通話をするため相手を呼び出し、耳に当てて応答を待っている最中に検挙されても「通話のために使用」にあたることになるだろう。この条文に限らず、立法者はこのように細かい表現の違いで適用範囲が変わってくることを意識して立案している。

*2:「取り付けられ」たものも含むと規定されているからカーナビや車載テレビも含む。

*3:この点について、ネット上には「注視」とは「おおむね2秒を超えて見続けること」であるとする情報が散見される。おそらく、この国家公安委員会告示がソースと思われる。この告示は、カーナビ業者などの交通情報提供事業者向けに指針を定めるものだ。事業者に対して、「ドライバーが注視しなくても済むような、視認性の高い方法で交通情報を提供しなさいよ」という文脈で「注視とはおおむね2秒を超えて見続けること」という基準が用いられている。だから直接的には道交法71条5号の5の「注視」の解釈を述べたものではないが、参考にはなるだろう。

*4:なお、赤信号で停止後に「注視」したことは私も認めているが、前記のとおり道交法71条5号の5には「停止中は除く」と明記されているから、この点は問題とならない。