弁護士三浦義隆のブログ

流山おおたかの森に事務所を構える弁護士三浦義隆のブログ。

夫のコレクションを勝手に売っても処罰はされない

「未成年の頃、親の財布から金を抜いていた」という話はよく聞く。正直なところ私も小学校高学年から中学校の頃にかけて何度かやった。バレて怒られたこともある。

ふと「親その他の親族の金を盗む」ということがどのくらい一般的な行為なのか気になって、Twitterでアンケートをとってみた。

結果は見てのとおりで、「盗んだことはあるがバレたことはない」が18%、「盗んだこともバレたこともある」が28%、「盗んだことはない」が54%。

私の友人の話など聞くと、盗んだことある人の方が圧倒的多数派にも思える。僅差ながら盗んだことない人の方が多いという結果になったのは少し意外だった。

もっともこれは男女差がありそうだ。男の方が盗んだことある人が多いだろうというのは予想できる。男女別に聞いたら男は盗んだことある派が多数派ということは充分あり得る。

仮にそうだとすれば私の友人はたいてい盗んだことあるという事実とも整合する。単に私の友達にろくでもない奴が多いのだとは極力考えたくない。

別の機会に男女別アンケートもやってみたい。

盗まれる親の側の認識も気になったので、そっちも聞いてみた。

 「盗んだことがある(発覚した)」が28%で、盗人側アンケートの「盗んだこともバレたこともある」の28%と同じだ。

アンケート対象には現に小学校高学年以上の子がいる親も含んでいる。

だから、今後盗むけどまだ盗んでないとか、盗んでるし今後バレるけどまだバレてないとかいうケースを考えると、親側の数字の方が低くなるのが普通だろう。

しかしそうはなっていない。

もちろん誤差ということもあるが、盗人側のアンケートの回答者の中に、嘘をついて、または盗んだ事実を忘れて「盗んだことはない」と回答している人がある程度いるのではないかという気もする。

 

ところで私が母親の財布から金を抜いたことが露見したのは小6の頃だった。

母から詰問され最初は否認したが、「では一緒に警察に行こう。警察には嘘発見器がある。これで調べてもらう」と脅され、観念して自白した。嘘発見器とはポリグラフの趣旨であろう。

警察に行ったところでまともに捜査してくれない、ましてやポリグラフまで使ってくれるなどあり得ないことは今ならわかるが、当時は純朴な盗人だったから信じてしまった。

 

一般の方は意外と知らない人が多いようだが、親の財布から金を抜いても、処罰されることは法律上ない。

親族相盗例というのがあるからだ。

 

(親族間の犯罪に関する特例)

第二百四十四条  配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

  前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

  前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 (窃盗)

第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(不動産侵奪

第二百三十五条の二  他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。

 

要するに、夫婦関係、親子関係、祖父母と孫の関係などにおいては、窃盗をしても処罰されないという規定だ。

同居していればその他の親族(兄弟姉妹や嫁姑等)でも同様。

 

最近、夫の趣味のコレクションを勝手に売ったり捨てたりする妻というのがネット上でときどき話題になる。言語道断の行為とは思うが、売った場合は窃盗だから、親族相盗例により処罰はされない。

一方、売らずに捨てた場合は器物損壊罪と考えられる。器物損壊に親族相盗例の適用はない。

もっとも、刑法上、器物損壊は窃盗よりも軽い罪とされている。したがって、盗んで売ったら処罰されないのに捨てたら処罰されるというのは不均衡な感じがする。捜査機関もこの点は考慮に入れそうなので、実際に立件してくれるかどうかは疑問だ。

以上は刑事の話だが、民事的には不法行為にはなるだろう。また、重大な場合は離婚事由にもなり得ると思う。今のところそのような事例には遭遇したことがないが。

 

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

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