ブログ開設初月は13万PV
4月3日に本ブログを開設して4週間。
ここまでのPVは13万強だ。
初月は5万くらい行けばいいかなと思っていたが、予想していたよりも読まれた。
下旬になって下記の3記事が連続してホッテントリ入りしたのが大きかった。急激に伸びた。
http://miurayoshitaka.hatenablog.com/entry/2017/04/22/183930
http://miurayoshitaka.hatenablog.com/entry/2017/04/27/090007
http://miurayoshitaka.hatenablog.com/entry/2017/04/29/013509
3、4年前にやってみたアメブロはすぐ飽きて更新しなくなってしまったのだが(一応引っ越し作業はしたので過去記事は本ブログにある)、今度はしっかり続けていきたい。
【削除しました】木村草太教授に懲戒請求された某弁護士のゴミ記事
もともと、本稿では、憲法学者で首都大教授の木村草太氏が、埼玉弁護士会に対し、同会所属弁護士のO氏を懲戒処分するよう請求した件について書いていた。
O氏が、O氏の事務所の公式サイトのコラムで木村氏に対し人格攻撃的な記述をしたのが懲戒請求の原因であった。
私は、「O氏のコラムが懲戒相当かどうかは微妙なところだが懲戒されても驚かないレベルとはいえるし、人格攻撃的な側面を除いてもO氏の主張内容は失当である」という趣旨で本稿を書いた。
この度、O氏から丁寧なお手紙をいただいた。
曰く、O氏の当該コラムは既に削除済みであるから、本ブログのうち、O氏が木村氏に対して人格攻撃的記述をしたことを前提とする記述も、訂正または削除をお願いしたいとのこと。
私としては、このような要求に応ずる義務があるとは考えない。
しかし、O氏が当該記事を削除したということは、人格攻撃的言説について反省されたということであろう。
私に対して名誉毀損だとか何とか言ってきたとしたら争っていたと思うが、そうではなくお願いされたので、これは私も削除してあげようという気になった。
人格攻撃的記載に言及した部分だけ修正する形の改稿も可能ではあったが、それも面倒だし、記事全体としてあまり意味もなくなる。
だから全面的に削除して、削除の経緯の説明だけこうして残すことにした。
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
労働者が労基法について1つだけ覚えておくとしたら
東本願寺の僧侶に残業代が支払われておらず、労使交渉の結果支払われることになった、という報道に接した。
残業代不払も、交渉や裁判の結果支払われることになるのもよくある話だ。私にとっては日常業務である。
もっとも、ちょっと目を引いたのは、1973年に作成された労使間の「覚書」に「時間外労働の割増賃金は支給しない」との文言があり、寺側はこの「覚書」に基づいて不支給を続けていたという点だ。
私が今朝見たテレビニュースによると、僧侶自身もこの「覚書」が有効だという前提で残業代はもらえないものと思っていたようだ。労働組合が僧侶に、「覚書」は労働基準法(以下「労基法」)違反で無効だと教えたらしい。
このような「覚書」は、法律家なら一笑に付すものだ。無効に決まっているからだ。
労働基準法第13条(この法律違反の契約)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
この13条により、労基法の定める基準よりも労働者に不利な労働条件を定める契約は無効とされ、労基法の定める基準が適用されることになっている。*1
残業代でいえば、「残業代は支払わないという約束をしたから支払わなくてもよい」という主張は、法的には通る見込みがないということだ。*2
これは労働法の基礎の基礎で、法律家でなくても、ちょっと労働法をかじったことがある人なら誰でも知っている。
しかし、話題の僧侶の残業代の件では、僧侶側がこの基礎を知らなかったから長らく我慢してしまったようだ。*3
素人に法律を詳しく知っておけというのは、もとより無理な話だ。詳しいことは法律家に聞けばよい。
しかし、「自分が受けている仕打ちは違法かも」「お金を取れるかも」と思いつくことができる程度の法的感覚は持っていないと、法律家に相談しようというきっかけも得られないから、結局やられ損になってしまう。
労基法についても、細かいことはとりあえず知らなくてもいいから、13条の効果、すなわち
「労働基準法に反する労働契約は無効=労働者が納得してサインしたとしても後から覆せる」*4
ということだけは覚えておいてほしい。*5
京葉弁護士法人(おおたかの森法律事務所・佐倉志津法律事務所) 代表
弁護士 三浦 義隆
*2:私が労働者側の代理人として出廷した労働審判で企業側代理人弁護士がこの主張をして、裁判官が失笑しているのを見たことがある。
*3:寺側も知らなかった可能性はあるが、無効と知りながら敢えてやっていたのかもしれない。泣き寝入り狙いで法的には無効な労働条件をわざと定める使用者はうじゃうじゃいる。争われたら負けるが、労働者が全員争ってくるわけではないので総計では得という判断か。
*4:就業規則や労働協約であっても同じ。労働基準法に違反する就業規則や労働協約は無効。
*5:「後から覆せる」という表現は法的には正確ではない。労働法違反なら最初から無効だから、事後的に覆すわけではないからだ。法的には無効でも過去には事実上通用してきた契約を無効と主張できる、という意味で、一般向けのわかりやすい表現としてここでは用いた。
退職の際に有休消化させない企業でも強引に消化する方法
年次有給休暇(以下、「有休」という。)は労働者の権利だ。
6か月以上の継続勤務や、対象期間の労働日の8割以上出勤などの要件はあるが*1、そうした要件さえ満たせば、どの企業でも付与される。
法律上当然に付与されるし、就業規則などに有休を与えない旨の定めを置いてもそんな定めは無効だから、「我が社には有休制度はない」などの主張は通らない*2。
ただ、そうはいっても有休を取りたいと言い出せなかったり、申し出ても一蹴されたりして、有休を消化できていない労働者が多いのが現実だ。
有休をきちんと消化させない企業でも退職時には消化させる例が多いようだが、退職時にさえ消化させない悪質な企業もある。
しかし、有休を与えないという悪質な労務管理をされても黙っている労働者が多いのは、社内での立場が悪くなると困るからだろう。退職時には立場を気にする必要はない。
例えば、全く有休を取れておらず勤続期間が7年半以上に及ぶケースでは、未消化の有休は、時効が成立していない分だけでも40日にもなる。40日といったら月給ほぼ2か月分だ。勤続期間が1年半でも有休は21日だから、月給ほぼ1か月分。
きちんとしたやり方で権利主張さえすれば取れる公算が高いのだから、泣き寝入りする手はないだろう。
では、どういうやり方で権利主張すればよいか。
一言でいうと、
「弁護士に依頼して辞職の意思表示を内容証明でしてもらう。そこに有休取得の意思表示も書いてもらう」だ。*3
ただし、成功率は下がると思うが一般人(ここで一般人とは行政書士を含む。)でもできないことはない。*4
以下に少し具体的にやり方を書いておく。
1. まず最終出勤日と辞職日を決める。
最終出勤日は好きな日にすればよい。
最終出勤日を決めたら、有休の残日数を確認し、最終出勤日の翌日から、元々休みになっている日は飛ばして1日ずつ有休を割り当てていく。
有休が尽きる日が辞職日ということになる。
2. いつ辞職の意思表示をするかを決める。
雇用期間の定めのないいわゆる正社員の場合、通常は、辞職したい日の14日前までに辞職の予告をすればよい。*5*6*7
この辞職予告期間は休日を含んで14日だ。当然有休の日も含む。
だから、有休の残日数次第では、辞職の意思表示をした後、1日も出勤せずに辞めることも可能だ(ここ重要。権利主張をした後に出勤することによる気まずい思いを避けることができる。)。*8
3. 内容証明を書いて出す。
「私は、XX年XX月XX日を最終出勤日として、以後年休を消化し、消化し終えるXX年XX月XX日限り貴社を辞職します。」という旨と、年休消化分の給料を請求する旨、請求に応じない場合は民事訴訟等の法的手段に訴える旨を明確に記載する。
辞職の意思表示をした後1日も出勤せずに辞める前記の方法をとる場合は、到着予定日に注意しよう。
4. 内容証明に書いた最終出勤日以後は出勤せず、有休分の給与が振り込まれるのを待つ。
これだけ。
過去に私は同種の内容証明を何度も出しているが、今のところこれで支払われなかった経験はない。
法的に勝ち目がないのは企業側もわかるし、弁護士までついているとなれば無視しても訴えられて負けるだけだから、普通は素直に払うしかないわけである。
ただし、企業が夜逃げしてしまうといった例外的ケースもないではないから、必ずうまく行くというものではないが。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所
*1:労基法39条。(第39条)年次有給休暇 | 大阪労働局
*3:参考までに私の場合の弁護士費用を書いておくと、内容証明だけなら5万円くらい。その後の交渉まで生じる場合は10万円くらい。個別の事情により増減はあり得る。
*4:一般人(行政書士を含む。)がやると成功率が下がる理由は、まず内容的に正しく権利主張できるか心もとないというのが一点。加えて、内容が正しかったとしても、素人からの内容証明では、相手に与える「無視したり拒んだりすれば訴訟になるぞ」という心理的圧力が弱いというのが一点。
*6:例外として、遅刻や欠勤をしても給料から控除されないいわゆる完全月給制の場合は、民法627条2項が適用されて、辞めたい給与計算期の前半までに予告する必要があると考えられている。例えば給料計算が毎月末日締めの場合、6月15日に予告すれば6月30日限り辞職できるからあまり変わらないが、予告が6月16日になってしまうと7月31日まで辞職できないから随分長くなる。
*7:就業規則では1か月とか2か月とか、法定の14日より長い予告期間を定める例が多い。このような就業規則の有効性について最高裁判例はないが、無効(つまり就業規則は無視して14日前予告で退職できる)と解するのが多数説であろう。その旨の下級審裁判例もある。
*8:このようなやり方は不義理ではないかとの疑念もあろうが、そりゃ一般的には不義理だろう。まともな会社ならちゃんと有給消化させて辞めさせてくれるから、労働者もこのようなやり方は普通は避けるだろう。有休も消化させずに働かせるようなブラック企業には、相応の対抗手段があるということだ。
司法書士及川修平氏による素人並の駄文について
司法書士の及川修平氏が書いた「なぜプロ野球選手は乱闘をしても逮捕されないのか」というブログ記事がハフィントンポストに掲載され、弁護士たちを困惑させている。
司法書士は基本的には登記の専門家だ。法律上は弁護士も登記業務をやってよいことになっているが、普通はやったことがないから実際上はできない。登記に関しては司法書士が最も頼りになる専門家といっていいだろう。私もしばしば司法書士の先生に登記をお願いするし、登記の専門家として敬意を持っている。
また、司法書士は、法務大臣の認定を受けた場合は、簡易裁判所の管轄の事件に限り民事訴訟の代理もできる。この点で部分的に弁護士と競合する。
しかし司法書士が刑事弁護をすることは一切認められていない。
そのような司法書士が、刑事法について専門家であるかのような体で一般向けに解説する記事を書くということ自体、弁護士から見るとやや違和感のある話だ。
ただし、司法書士試験の試験科目には一応刑法もある。
例えば「日商簿記2級保持者」という肩書の人が会計理論について解説してはいけないかというと、絶対にいけないとまでは言い切れないだろう。そんな人が本当にいたら「マジかよ」とは思うが。
こう考えると、司法書士の肩書で刑法の解説をすることもダメとまでは言いにくいかもしれない。「マジかよ」とは思うけどね。
しかしこの記事は内容がダメだからどっちにしてもダメだ。素人水準と言わざるを得ない。
同記事を要約・引用しながら、適宜コメントを付してみよう。青字が要約・引用部分。
・プロ野球の乱闘で逮捕者が出ないのはなぜか。
→特に誤りはない。
・外科手術や格闘技などは、形式的には傷害罪などに該当するが、正当な業務行為という法理により適法となる。
→特に誤りはない。ただし及川氏が正当業務行為の根拠条文(刑法35条)を示していないのは法律家としては奇妙だ。
・しかしプロ野球の乱闘は本来「業務」とはいえないので、一般人のケンカと同様、刑事罰の対象となってもおかしくない。
→特に誤りはない。
・なぜ暴行罪や傷害罪とならないかということについては、プロ野球が「興行」という側面を持つもので、この乱闘というものもある種の見世物的な意味合いとして世間一般に受け入れられているからだろうと考えられる。
→ちょっと何を言っているのかよくわからない。
乱闘の殴る蹴るが、暴行罪や傷害罪の条文が定める要件(法律用語で「構成要件」という。)に該当することは疑いがない。
構成要件に該当する行為は原則的には違法だ。例外的に、正当業務行為などの適法になる事由(法律用語で「違法阻却事由」という。)がある場合だけ適法となる。
及川氏は、前の段落で、乱闘は正当な業務行為ではないと述べていたように読める。それなら素直に考えると違法なはずだ。
それなのに、興行の一環として世間に受け入れられているから云々といった理由で暴行罪や傷害罪にあたらないというのはどういうことか。前段と矛盾しているのではないか。
百歩譲って矛盾していないとしても、「興行の一環として世間に受け入れられている場合は正当業務行為でなくても適法とする」という規定も理論も刑法にはないから、乱闘が適法であることの法律的な説明になっていないと言わざるを得ない。
これを強引に好意的に解釈して、法的な説明となるように読んであげるとすれば、「乱闘は一見正当な業務行為ではなさそうに見えるが、興行として世間に受け入れられているから、実は正当な業務行為である」という読み方が考えられる。
また、刑法に明文の規定がない、いわゆる「超法規的違法阻却事由」にあたるのだと主張している、という読み方も考えられる。
しかしこれらは国語的には導き出されない読み方だろう。結論として正当業務行為であるとも、超法規的違法阻却事由であるとも、及川氏の記事のどこにも書いてないからだ。
及川氏が、主観的には「乱闘は正当業務行為である(または超法規的違法阻却事由である)」という主張を書いたつもりで、客観的にはあのような文章になっているなら、日本語の作文能力に問題があると言わざるを得ないだろう。
以上でコメントは終わり。
最後に、乱闘における暴行傷害等について私見を述べておく。
あれは普通に違法だし犯罪だと思うよ。
ただ事実上立件されることなく放任されているだけだと思われる。
理論的に犯罪であることと実際に立件されることとの間にはかなり距離があるが、その距離の認識がないので「立件されない以上は適法なはず」と考えてしまったことが、及川氏の間違いの始まりだったのではないか。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所
重婚罪の成立・立件は現実的にあり得るか
ここ2日ほど、政治家のスキャンダル絡みで、「重婚」という単語がネット上によく出現している。
私はそのスキャンダルには全く興味がないから、本稿はそのスキャンダルの報道などを何も見ずに書いていることを先にお断りしておく。
twitter等で、「現代日本の戸籍実務の下で、重婚なんて起こり得るの?」という疑問を述べる人が散見される。
結論から言うと、重婚は起こり得る。
離婚が成立するための形式的要件は離婚届の提出だが、実質的要件として、夫婦双方の離婚意思が必要になる。
だから、例えば夫婦の一方が配偶者に無断で離婚届を作成し提出し、これが受理されて、戸籍上離婚したかのように見える状況となっても、法律上はそのような離婚は無効だ。
離婚が無効だということは、法律上、その夫婦は変わらず夫婦のままということだ。
そこで、先に無断で離婚届を作成提出した当事者(Aとしよう)が、別の人と「再婚」することにして婚姻届を提出した場合どうなるか。
Aは法律的には婚姻中なのだが、戸籍上は独身に見えるから、婚姻届は受理されてしまう。
この婚姻が法律的に無効なら、有効なのは前の婚姻だけだから重婚は生じないことになるが、実はそうではない。
(不適法な婚姻の取消し)
第七百四十四条 第七百三十一条から第七百三十六条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。
2 第七百三十二条又は第七百三十三条の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消しを請求することができる。
(重婚の禁止)
第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。
「重婚にあたる婚姻は取消すことができる」というのが民法のルールだ。
取消すことができるというのは、無効とは違って、取消されるまでは有効という意味である。
だから、このような場合には、
1. 前の婚姻の離婚は無効だから前の婚姻はまだ存在する
かつ
2. 後の婚姻も取消されるまでは有効に存在する
ということで、重婚になってしまうわけである。
夫婦の一方が離婚届を無断で提出しそれが受理されるという事態は現実にしばしばある。
その後に当事者の一方が「再婚」してしまい重婚状態になる事態も、そんなに稀ではないだろう。
実際、判例検索システム(私が使っているのは「判例秘書」)で検索しても、前の婚姻の離婚無効と後の婚姻の婚姻取消が認められた事例は少なくない。
だから冒頭に述べたように、重婚は現代日本においても普通に起こり得るといえる。
もっとも、民法上重婚にあたる場合があるとしても、それが刑法上の重婚罪にあたるかは別問題だ。
(重婚)
第百八十四条 配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。
この刑法184条の解釈として、「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたとき」にあたるためには、戸籍上の婚姻が重複する必要があると主張する見解がある。
この見解によれば、無効な離婚届が受理された後に当事者が「再婚」して重婚になったような場合、戸籍上は後の婚姻しか存在しないから、重婚罪は成立しない。
この見解からは、重婚罪は、既に戸籍上の婚姻をしている人が婚姻届を出してきたのに役所がミスって受理してしまったという、ほとんどありそうもない場合にしか成立しないことになる。
しかし、裁判所はそのような見解を採用していない。名古屋高裁昭和36年11月18日判決を一部引用する。
思うに、重婚罪に関する規定が、民法の諸規定と相俟つて、そして、その側面から法律婚としての一夫一婦制を維持強行するための規定であることを考えれば、本件の如く前婚が婚姻当事者一方の意思によらず、偽造若は虚偽の協議離婚届により解消し、従つて、戸籍上その婚姻関係が抹消された場合でも、その婚姻関係が適法に解消されない間に、重ねて他の婚姻関係(勿論それは法律婚であることを要件とする)を成立させれば、刑法所定の重婚罪が成立するものと解すべきである。蓋し、斯る場合、前婚の解消が当事者(一方又は双方)の真意に合致しないものである以上、仮りにそれが犯罪(私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使等)又は犯罪的手段により戸籍上の婚姻の記載が抹消されたとしても、その婚姻の解消は無効であつて前婚は、それが適法に解消されない限り、なお法律婚として有効に存続するものというべく、従つて、この間において重ねて他の婚姻関係を成立させれば、ここに法律婚として二個の婚姻関係が重複して成立するわけで、法律の所期する一夫一婦婚制度は、破壊されることになるからである。
要するに、偽造や虚偽の離婚届によって外見上は前の婚姻が解消されても、法律的には婚姻は存続してるんだから重婚なわけで、一夫一婦制保護という重婚罪の立法目的から考えると、戸籍上重婚に見えないとしても法律上の婚姻が重複しておれば一夫一婦制を破壊する行為であることに間違いはないから、重婚罪は成立するよ。という話だ。これはまっとうな解釈であろう。
このように、現代日本においても、民法上も刑法上も重婚はあり得る。
ただし重婚罪の裁判例は、「判例秘書」搭載のものは前掲の昭和36年判決が最後のようだ。
勿論、判例集に掲載されない裁判例が存在している可能性は否定できないが、昭和36年以後も離婚無効や婚姻取消は続々出ているのに、重婚罪での立件・有罪事例は実務上も目にすることが全然ない(少なくとも私は一度も見たことない)。
おそらく無効な離婚届の提出などにより重婚状態が発生しても、捜査機関はいちいち立件しないというのが現在の捜査実務なのではないか。
今話題の政治家氏にしても、具体的事実関係は知らないが、仮にこれが法律上重婚罪にあたるような行為だったとしても、立件されることはおそらくないだろう。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所
私立病院の医師が虚偽の診断書を書いても罪は軽い
先日twitterで、匿名医師アカウントのEARL氏(@DrMagicianEARL)が、同じく医師の内海聡氏が内容虚偽の診断書を作成した場合には公文書偽造罪が成立するという趣旨のツイートをしていた。
え?これ、ワクチンも打ってないのに内海聡に「ワクチン接種済み」の虚偽診断書を作成してもらいに行ったってことかしら?それで作成してもらったんだったら公文書偽造罪にあたるよそれ pic.twitter.com/qMhlsEzlS9
— EARL⊿ 桜あった (@DrMagicianEARL) 2017年4月14日
しかし、公文書とは、公務所または公務員の名義で、その作成権限に基づき作成される文書のことだ。
私立病院の医師であれば、その作成する診断書は公文書ではないから、公文書偽造罪(虚偽公文書作成罪)は成立しない。
内海氏は公立病院勤務ではないようなので、同氏作成の診断書は公文書にあたらず、虚偽公文書作成罪は成立しません。ただし公務所に提出すべき診断書に虚偽記載をすれば虚偽診断書作成罪にはなります。公務所以外、例えば患者の勤務先企業とか私立学校に提出する診断書なら虚偽を書いても不可罰。 https://t.co/UBu7ebRX4M
— ystk (@lawkus) 2017年4月14日
しかしEARL氏が勘違いしたのも無理からぬところがあると思う。
医師の診断書の偽造や虚偽記載について、所属先が公立か私立かで刑法上の扱いが異なるというのは、常識に反する面があるからだ。
以下簡単に刑法の解説をしてみる。
文書偽造には、有形偽造と無形偽造がある。
有形偽造というのは、平たく言えば文書の作成名義を偽ること。他人になりすまして文書を作成する場合が典型。
無形偽造というのは、平たく言えば文書の内容を偽ることだ。
そして、
公文書は有形偽造も無形偽造も処罰される
私文書は有形偽造しか処罰されない
というのが現行刑法の原則である。
言い換えると、
私文書に嘘を書いても、名義さえ偽っていなければ処罰されないのが原則
ということだ。
しかも、同じ有形偽造(名義の偽り)でも、公文書の場合は私文書よりも法定刑が重い。つまり重罪である。
(公文書偽造等)
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(虚偽公文書作成等)
第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。
(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
私的な手紙などに嘘を書いたくらいでいちいち処罰するのはやり過ぎだろう。勿論、嘘の手紙で金銭等をだまし取れば詐欺罪が成立する等、他の犯罪にあたる場合は別。
一方、公文書は類型的に社会的信用が高いし、その信用を保護する必要も高いから、嘘を書いただけでも処罰した方がいいだろう。
このように、公文書と私文書で刑法上の扱いが異なることは、一般的には社会通念にも合致する妥当な取扱いだと思う。
ただし例外的に、私文書でも類型的に社会的信用が高く、その信用を保護する必要が高いような文書はある。診断書などその典型だろう。
しかも病院には公立も私立もあり、所属病院が公立か私立かで医師の仕事が異なるわけでもない。
仮に上記の原則どおり、医師が診断書に嘘を書いても公立なら処罰されるが私立なら全く処罰されないということになると、これはいかにも不合理であろう。
そこで医師の作成する診断書等については特別の規定が置かれている。
(虚偽診断書等作成)
第百六十条 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
ただし、この規定によっても、虚偽診断書作成が、公立の医師でも私立の医師でも同じように処罰されるというわけではない。
①まず、処罰対象となる診断書等が、「公務所に提出すべき」ものに限定されている。
つまり、私立の医師が診断書に嘘を書いた場合、それが役所に提出する診断書なら処罰されるが、私人に提出する診断書なら処罰されない。
例えば保険会社に提出する診断書なら嘘を書いても刑法上はセーフ。
患者が通学する学校に提出する場合だと公立学校ならアウトだが私立学校ならセーフ。
患者の勤務先に提出する場合でも患者が公務員ならアウトだが一般企業勤務ならセーフ。
やはり不合理さが残る感じは否めない。
②虚偽公文書作成罪と虚偽診断書等作成罪では法定刑が異なる。
公立病院の医師が虚偽診断書を作成すると、診断書は普通は有印だろうから、1年以上10年以下の懲役(刑法156条・同155条1項)。
私立病院の医師が虚偽診断書を作成すると、3年以下の禁錮または30万円以下の懲役(刑法160条)。
私立の方がずいぶん軽い。
このように、現行法上、診断書に嘘を書く行為の取扱いは、医師の所属先が公立か私立かで大きく異なる。
そのことが常識に反し不合理な面があるのは前述のとおりで、立法論としては扱いを統一する方が望ましいのではないかと思う。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所